所変わってここは雨乾堂。
俺は約束の定期検診を行っていた所だった。
何で俺がわざわざここまで来てやってるのか。
それは至極簡単。単純明快。
この野郎が呼んでも四番隊まで来やがらないからだ!
いくらこいつがオトボケボケボケ野郎でも、仮にも一隊長である。
そのため、連絡係の下っ端君達は強く呼び出すことも出来ず、結局はこうして毎回わざわざ人が――というか主治医である俺が――派遣されることになるっていう話だ。
「はい、終了っと」
「すまないな。ありがとう」
「悪化してたらそれを理由にして心置きなく殴れたのにな」
残念ながら検診に来ない割に、経過は良好だった。
言い付けは守らないくせに、薬だけは真面目に飲んでいるらしい。
ある意味一番憎らしい患者だ。
「更紗が診てくれているからそれは大丈夫だろう」
「だけど、だからといって無茶していいいわけないだろ馬鹿。春水も見てないで止めろよ」
爽やかに笑う十四郎に、俺は微妙な顔を返すしかなかった。
医者として信頼されているのは嬉しい限りではあるが、如何せんこいつは楽観的すぎる。
まぁ俺様がこうしてわざわざ診てやってんだ。
万が一にも有り得ないが。
こういう時に一番止めなくてはいけない立場にいる奴に、恨みを込めて睨み付けると、何故か春水はにやにやと笑っていた。
きもっ。
「何笑ってんだ、おい」
「いやー、なんだかんだ言って更紗ちゃん、浮竹のこと大事にしてるから大丈夫かなって」
わざわざ診に来てくれるぐらいだし。
放任主義の更紗ちゃんがここまで心配してくれてるし。
なんて続けられた時には、思わず目の前の男を殴りつけていた。
「痛いなぁもう」
「俺様がわざわざ来てやってんのは、どっかの誰かさんが呼び出しに応じないからだろうが」
「俺のことだな」
悪びれる気配もなく爽やかに笑い飛ばすどっかの誰かさん、浮竹十四郎。
物凄く殺意が湧いてきた。
そりゃもう激しく。
やっぱり分かってて来やがらないんだなこいつ!
「…分かった。そんなに悪化したいならやったあげるけど?」
笑顔で懐から取り出した注射器と瓶を目の前に並べる。
最近取り出していなかったせいか、自分で言うのもなんだか、よくこれだけ仕込めたなと思うほど出てきた。
「あはは、遠慮しておくよ」
「更紗ちゃんが言うと冗談にならないよ」
「よし春水何の病気がいい?優しい俺様が選ばしてあげよう」
懐から注射器を取り出して、春水の首にあてがう。
俺の中で一番優しい笑みを浮かべて聞いてやる。
「だから冗談に聞こえない…って、ごめん僕が悪かったからその物騒なものしまって」
「ちっ」
尚も笑って続けようとする春水に、更に数本取り出してみせるとさすがにマズいと分かったのか、ようやく謝ってきた。
元より本気で刺す気はなかったので、素直に取り出したものを懐へと戻した。
舌打ちはご愛嬌だ。
安心したように溜息を吐いた春水に、もうちょっと脅してやればよかったと密かに思った。
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