とりあえず、殴る    [ 39/64 ]


「俺にどうしろっつーんだよ・・・」


目印がなければ、進むことが出来ない。
=目的地に辿り着けないということだ。

俺の方向音痴っぷりを甘く見ては困る。
いや、甘く見ていないからたちが悪いのか。








「はぁ・・・」


それにしても、こんなことをする意図は何なんだろう。


俺に来て欲しくないなら、あいつは直接言って来る奴だし・・・
ただ単に俺を迷わせて遊んでいるか、時間を稼ぎたかったか、どちらかか?

出来れば後者であってほしい。
あいつは俺が迷うのを楽しむほど、性格は悪くない・・・はず。
いや、でも、爽やかな笑顔で「面白そうだったんでな、つい」とか言っている姿も思い浮かばないこともない。


考えていたら有り得そうで少し怖くなった。

れっちゃんといい十四郎といい、あぁいう笑顔な奴が一番たちが悪いっていうことは、経験上身にしみている。
伊達にあいつら年食ってる訳じゃないしな。






「・・・とりあえず、適当に進んでみるか」



真意は本人に会ってから問い質そう。
その方が精神衛生上にもいいはずだ。

そう決めた俺は、とりあえず自分の勘に任せて進むことにした。







数分後、その決断を俺は恨むこととなる。








◆ ◆ ◆ ◆ ◆








「あいつ・・・っ、とりあえず、殴りてぇ・・・っ」


迷いに迷い、野を越え山を越え、庭を越え屋根を越え、人を見つけ、ようやっと目的地である、十三番隊の隊首室『雨乾堂』へと辿り着くことが出来た。
ここまでの所要時間は、通常の三倍以上掛かったとだけ記録しておこう。
疲労度はそれ以上。
思わず怒りで息も乱れるというものだ。


一発お見舞いしてやろうと思い、叫んで障子を開けたが、







「おーい十四郎っ!俺様がわざわざ診に来て・・・・・・って」





中はもぬけの殻だった。






「・・・・・・は?」



隊首室に隊長がいないだなんて、どういう了見だ。
しかも、俺は前々から今日訪ねると先触れを出していたはずなのに。
(俺はすっかり忘れてたけど、あいつが忘れる訳はないだろう)


いない=どこかに行ってる






ということは、








「あいつ・・・っ!俺を迷わした挙げ句、逃亡か?あぁ!?」


苦労してここまで辿り着いたのに、患者がいないというこの状況。
キレてもいい条件は揃っている。
というか条件が揃ってようが無かろうが、俺はキレる。
むしろキレた。
今日こそはキレてもいいはずだ。





「仙!清!どっちでもいいからとっとと出てこい!」

「「はっ、はいっっ!!」」


俺一人しかいないはずの空間で大声で叫べば、すぐさま気配が二つ増えた。
十三番隊第三席である、小椿仙太郎と勇音の妹である虎徹清音の二人だ。
十四郎を大好き過ぎる二人なら、奴の居場所を知らない訳がないはず。




「あの馬鹿野郎の居場所知ってるよな?」


にこっと笑顔でそう問い掛けてやれば、目に見えるように怯えだした。




――までは良かったのだが、





「申し訳ありません!!自分の口からはとてもとても言えないので・・・おい!ハナクソ女お前が言え!」

「ずるいぞ小椿!自分だけ隊長との約束守るつもりか!」

「更紗さんに逆らえるわけねぇだろうが!」

「私だってそうよ!」

「だからお前が―――」



とか、ギャーギャーと鬱陶しいことこの上ない応酬を目の前でされたら、誰だって声に凄みという名の殺気が混ざってしまうのも無理はないだろう。
正直言ってこいつらはまともに相手してたら疲れる。

というか十四郎、こいつらに口止めしても絶対無理だろ。




「ウゼェ。いいからとっとと言え」

「「たったた、鍛錬所に行かれましたっ!!」」

「へぇ・・・鍛錬所、ねぇ?」


俺のこめかみに青筋が刻まれたのがはっきり見えたのだろう。
目の前の二人はまた怯え出したたのが見えたが、面倒臭いから無視した。


それよりも、



鍛錬所たんれんじょ鍛錬所、ねぇ。
一番居てはいけない場所だと思うのは俺だけかな?
なぁ?十四郎さんよ?




「どっちか案内しろ」

「「・・・へ?」」


唐突にそう告げた俺に、二人はなんとも言えないような顔をした。

なんだその顔は。

鍛錬所まで距離がそんなに無いのは俺だって知ってんだよ。
だけど、今日はもうこれ以上迷いたくはない。
保険はあって損はない。



「連れてけ」

「・・・こ、今回ばかりは俺様の寛大な心でテメーに譲ってやる!から逝って来い!!」

「ずるいぞ小椿!私だって隊長に怒られるのが嫌なんだからね!」

「俺様だって――」

「仙。清」

「「・・・」」


またもや、言い争いを始めた二人の肩を掴んで、俺は二人の名前を呼びながら微笑んでやった。



「とっとと行くぞ」

「「はいっっ!!」」



小競り合いをしながらも、ようやく動き出した二人に、俺は笑みを深くした。


さぁ待ってやがれよ、十四郎。




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