ドンッ
俺はあまりの怒りに、持っていた湯呑みごと手を机に叩き付けた。(ひびが入ったように見えたのは、多分気のせいだ)
「どうし――」
「まずい」
「「「「・・・・・・へ?」」」」
「まずいっつってんだよ。何だこのお茶は!良い茶葉使ってんだからもっとましな入れ方しろっつーの!はぁ、いやだいやだ。これだから戦闘馬鹿は、戦闘しかしなくていいやとか思い上がりやがって、茶の入れ方すら知らねぇ。書類も出来ねぇし?しかも、そのお得意の戦闘とやらも弱っちいときた。ほんとお前らただの能無しだな」
「「「「・・・」」」」
息継ぎもなしにそう捲し立てれば、固まったように全員動かなくなった。
どうやらここ数日で、十分俺への恐怖が刷り込まれたようだ。
そのことに満足感は感じる。
が、
そんなことよりも大事なことがある。
お茶は俺にとって研究に疲れた心を癒してくれる大切な一時だ。
それを、こんなまずいお茶で汚されたのは、かなり頭に来る。
「茶葉の無駄遣いだな。まったく」
「おいおい。そこまで言うことはないんじゃないか」
「まぁ、お世辞にもおいしいとは言えないけどね」
怒り心頭といった俺に、隣で同じようにくつろいでいた(お前らも働けよ)角之助と親が呆れたようにつっこんできた。
そこまで言うことじゃないだと!?
それに、俺の怒りの矛先が変わった。
「そこまで言うことじゃない?はぁ?お前らこのお茶の本当の旨さ知らねぇからそんなこと言えんだよ」
全く。
こいつらもやっぱ戦闘馬鹿か。
あぁもう!
何か物凄く腹立ってきた!
「花太!」
俺は、わざわざ十一番隊の奴らに優しくも仕事を教えてあげている花太を手招きして呼び寄せた。
それに気付いてパタパタと駆けてくる姿に癒されて、少し溜飲も下がった。
「更紗さん?どうかしましたか?」
「こいつらにお茶淹れてやって」
「え、あ、はい?」
「こいつらに茶の旨さっていうのを教えてやりてぇ」
「ふふ。分かりました」
俺のお茶好きは四番隊じゃ周知の事実だったので、花太は何があったのか瞬時に理解したようだ。
にこりと笑って、お茶を淹れるためにまた、ぱたぱたと駆けていく花太の姿を見送る。
やっぱ花太かわいいっ!
癒されるなぁと満足した俺は、お茶菓子に手を伸ばした。
「そういえば、更紗」
「ん?」
同じようにお茶菓子を食べていたれっちゃんが、ふと思い出したといった風で俺を呼んだので、とりあえず手を引っ込める。
「何?」
「あなた今日予定が入っていませんでしたか?」
「予定?・・・・・・あ、」
そういえば今日は何日だ?という所から辿らなければいけなかったため(徹夜が多すぎて日付感覚が狂っているのだ)、予定を把握するのにしばらく掛かってしまった。
このままだったら数日後に当人に言われるまで気付かなかっただろう。
まだ約束の時間が過ぎていなかったのが幸いだった。
あっぶねー。
「あら、のんびりしていたから可笑しいとは思ってましたけれど・・・その様子だとすっかり忘れていましたね?」
「・・・・・・今から行ってきマス」
咎めるような視線を寄こしてきたれっちゃんに、俺は視線を逸らすしかなかった。
俺が忘れっぽいの知ってるだろ!?
れっちゃんには逆らえないから、と大人しく立ちあがる。
と、それにつられるように角の助と親までもが立ちあがった。
こいつらついてくる気か?
冗談じゃない。
そう思った俺は近くにあった半紙と筆を取った。
「何だ、出掛けんのか?」
「僕らも暇だしついて行―――」
「これ」
「「へ・・・?」」
二人の目の前に笑顔で書きあがった半紙を差し出す。
『藤城更紗は珍しく真面目に仕事に出ております。暇人は探したければ勝手に探せばいいと思います。ただし、気が向かなかったら叩き返します』
「何というか・・・」
「お前らしい張り紙だな・・・」
「だね」
「重要なのはここ」
どういう意図かまだ分からないからか戸惑いながらも返答する二人に、俺は笑顔で紙の下の方を指差した。
『ただし、暇だとしても、親と角之助テメェらは来んな。うぜぇから。来たら問答無用で潰す』
「これ、机に貼ろうと思ってんだけれど」
「「・・・」」
「どう?」
とどめの極上スマイル。
「えっと・・・、何でここだけ赤なんだ?」
「聞きたい?」
「「・・・いや、いい」」
「そう。じゃあ俺は仕事に行ってくるわ」
二人が座りなおしたのを確認してから、俺は歩きだした。
給湯室で花太がいそいそとお茶を用意している姿を見て癒されながら。
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