新しい噂    [ 36/64 ]


『おい聞いたか!?十一番隊が毎日四番隊にこき使われてるらしいぞ!?』





そんな噂が流れたのはつい数日前のお話…―――















「これの資料を――」

「取ってきます・・・」

「六番隊に書類を」

「了解、しました・・・」

「お茶が欲しいですね」

「・・・・・・今すぐ淹れてきます」

「隊長。これは――」

「やり直しです」

「この前の書類はどこ?!」

「え、あ、あの・・・」

「資料はそこの棚から――」




ここは影で(表でも堂々と言われているが)護廷十三隊最弱のお荷物部隊とも言われているほぼ治療専門(他は補給やら雑用やら雑用やら雑用)の部隊・四番隊――――














――――のはずだったのだが、






「そこの貴方」

「はっはいっ!」

「この書類一時間以内にお願いしますね」

「・・・・・・え」

「おーい。そっち終わったらこっちな。その隣の奴はこっちの整理な」

「「・・・」」

「ちょっとーもたもたしないでよね」




目の前で繰り広げられている光景は、何と不可思議で、何と面白い光景だろうか。

四番隊の隊員が当たり前かのように、天敵とも言える十一番隊の隊員を顎で使っているのだ。
しかも、これでもかと言うくらいに、いちゃもんを付けている。
その本人たちはと言うと、馬車馬のごとく動き回っている彼らの横で、のんびりとお茶菓子を食べている始末。
十一番隊の面々は、それを憎しみ余って殺意百倍といった視線で睨んでいた。

睨んでいるのだが、



「あら、皆さん。手が止まっている様に見えますが・・・」

「早く終わらして下さいね」

「まだまだ貯まってるんですから」

「遅過ぎじゃありません?」



普通ならば、それで縮みあがってしまうはずの彼らだったが、むしろ爽やかな笑みで嫌味を返すだけだった。
効果無し。
着実に隊長の黒さは隊員へと浸透しているらしい。





「「「「「(ちくしょうっ!)」」」」」


最終的に、心の中で思い付く限りの悪態を吐くことぐらいしか、彼らが反抗する術はなかった。

ところで、何故彼らはお得意の武力行使に出ないのか、とお思いになった人も少なくはないだろう。
普段ならば胸の内に秘める必要はなく、即暴力に出てれば万事上手くいくのだが、


       . . . .
今回は、そう出来ない理由が彼らにはあった。

・・・否、言い方を変えよう。
        . . . . .
彼らには、そうしたくない理由があったのだ。




彼らは言わば、生き残りだった。

この場所で雑用係として扱われるようになってから、次々と、まるで順番を競っているかのように、犠牲者は増えていった。
今まで下に見ていた奴らの下につき、こき使われる屈辱。
それに耐えきれなかったものが、実力行使に出、容赦なく叩き潰されていく姿を何度も見ていた。

それだけならまだしも、理不尽な理由で消えていった仲間も少なくない。
ちなみに初日で、大柄な隊員は全員、邪魔だ暑いむさ苦しいと言う理由で消えていった。

そして一番恐ろしいのは、仲間が消えていった救護室からは、何故か毎日悲鳴が聞こえてくることだ。
彼らは悟った。
ここで、忍耐力を切らしたら、もしくは彼の人物のかんに障るようなことでもしたら、



文字通り、地獄を見ることになると。



そう言った理由で、彼らは一日を、今まででは考えられないくらい、大人しく過ごすことに神経を使っていた。
真面目に働くのも、四番隊の面々の嫌味に耐えるのも、ひとえに自分の身の安全のためである。
幸い、今日は今のところ何もお咎めもとい制裁はない。

このまま穏便に一日が過ぎてくれるのを、ただただ願うだけ―――








ドンッ







――………と言うわけにはいかなかったらしい。

彼がお怒りのようだ。










「「「「「(ひいいぃぃっ!)」」」」」






第伍話 噂のあの子のお仕事
(素直こそ最強なり)




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