やっといつもの静けさが戻ってきた。
「・・・はぁ」
「何だか嵐でも来たみたいでしたね」
楽しそうに笑うれっちゃん。
俺としてはあなたも嵐の中に含めたい。
「何か?」
「いいえ。何も」
誤魔化すように会話を打ち切って、大きく伸びをした。
と同時にひょっこりと顔を出したのは、
「更紗さん。こちらに更木隊長が来ま―――」
「花太ああぁぁー!!!」
花太だった。
姿を認めた瞬間、全力で飛びついた。
俺には今花太が必要だっ!
「うわっ。ど、どうしたんですか?」
「やっぱ花太は俺の癒しだよ〜」
荒んだ心が癒されるようだ。
そうだよ。
俺の今日一日の頑張りは全てこの癒しの為だったんだよ。
このほんわかした笑顔の為だったんだよ。
癒しを貰っただけでもう満足だ。
いつもとは逆に、ぽんぽんと背中を叩いて花太に慰めてもらった。
ああちくしょう。それすらもかわいいなコノヤロー。
「花太郎」
「はい?」
「更紗にお茶を入れてあげなさい」
「はい!」
腕から解放された花太は、ぱたぱたと給湯室にかけていった。
振り返るとれっちゃんが優しく笑いかけてくれていた。
・・・なんだかんだ言って優しいかられっちゃんのことも好きなんだよな。
じゃなきゃれっちゃんの下で働いてなんかないし。
俺は一番ここが性に合ってるんだ。
「更紗さんお疲れ様でーす」
「更紗さんありがとうございます!」
「更紗さん大丈夫ですか?」
「更紗さん。俺―――」
「更紗さん――」
この頃になってやっと他の隊員たちが戻ってきた。
治療を終えた者や、頃合いを見計らっていた者、通常任務をしていた者。
どの顔も晴れやかだった。
三人分のお茶だけを入れて帰ってきた花太は、慌てて給湯室に戻っていった。
それを数人が手伝いに走る。
そう。
このほのぼのとした空間が俺は好きなんだ。
十一番隊なんざクソ食らえ。
「さて、皆の衆」
立ち上がって両腕を広げた。
あたかも演説者であるかのように。
集まる視線。
みんな何かを待ち望んでいる。
「今日は下僕がいっぱい手に入った。日頃の憂さ晴らしといこうじゃないか!何かされたら俺に言いな。もう一度沈めてやるから。四番隊の有り難みを骨の髄まで刻み込んでやれ!」
「「「「うおおおぉぉぉぉ!!!」」」」
轟くような歓声があちこちから聞こえてくる。
それを手で制して続ける。
「ただし、やるからには証拠残すなよ。証拠を残さず徹底的にやれ。それだけは肝に銘じておくように!以上!」
「「「「はいっ!!」」」」
みんながみんな嬉しそうな顔をしている。
それを喜ばしく思う反面複雑だった。
…そんなに鬱憤が溜まってたんだな。
やり過ぎなきゃいいけど。
まぁ証拠隠滅ぐらいお手のものだけどさ。
れっちゃんが。
盛り上がっているみんなからは遠ざかって、れっちゃんの隣へと戻った。
「こんな感じで満足かい隊長?」
「さすが更紗ですね。文句無しです」
「お褒めに与り光栄ですってな」
二人顔を見合せて、くすくすと笑った。
これでしばらく四番隊に手を出す輩は現れないだろう。
現れたとしたらそいつはかなり無謀だ。
「お茶遅くなりましたっ」
淹れ終えたのか花太が駆け寄ってきた。
他のみんなにはもう配ったのだろう。
両手に三つだけ湯呑が乗ったお盆を抱えていた。
こぼしそうで、見ていて何ともはらはらする光景だ。
目の前に来た花太の手からさりげなくお盆を取り上げておいた。
「ありがとう花太」
「いえ、そんな」
「さぁ一緒にお茶にしよう?」
「はい!」
これから面白くなりそうだ。
のんびりと、花太が淹れてくれたお茶を飲みながら、俺はほくそ笑んだ。
(2009.07.05)
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