姦しい    [ 34/64 ]

まず最初に入ってきたのは、


「あ、更紗さんっ!!」


目の前の男を心配して来たはずなのに、俺の姿を見たら飛びついてきた、おしゃれまつげことちか。

んで、次に入ってきたのが、


「よう」


眩しいハゲこと角之助。



「あ、角之助もいたんだ。相変わらずツルピカだな!」

「さらっと笑顔で何失礼なこと言ってやがんだ!ていうかその呼び方止めろ!」

「誰に向かって命令口調なんだ?あぁ?」

「うっ・・・」

「・・・バカだよね、一角って」

「バカだよなー」



ちかと二人で調子を合わせていたら、とうとう角の助はキレたらしい。
確かに俺は角の助がキレた音を聞いた。
こう、ぶちっと。


「弓親テメェっ!!こいつの肩持ち過ぎだぞっ!」

「当たり前だろ。僕は美しいものの味方だ」

「お前このっ――」


ちかに突っかる角の助。
そんな角の助を、バカでも見るような目つきで自信満々にそう宣言したちか。

わーちかって正直者ー。

なんて自分のことは棚に上げて、観戦に徹することにした。
巻き込まれると面倒だし。



「だからっ―――」

「お前らいい加減にしろ!」



しばらく言い争いをしていた二人だが、誰が止めるよりもまず奴が真っ先に痺れを切らしたようだ。
額に青筋を浮かべて更木が怒った。




「隊長っ!一角が悪いんですよ!」

「はぁ!?弓親お前だろーー」

「ちょっ――」




ただ、怒鳴られたぐらいで引くような奴らじゃなかったけど。

耳を塞ぎたくなるほど、姦しい。
誰だ女三人で姦しいとか言った奴は。
男二人でも充分姦しいぞ。



うんざりしながらも眺めていたら、横からぽんと肩をたたかれた。










・・・嫌な予感がするんですけれども。



案の定、振り向けばとてもいい笑顔のれっちゃん・・・もとい烈様がいた。





「更紗」

「・・・」

「更紗」

「・・・・・・ハイ。何デゴザイマショウカ」

「騒がしいと他の患者の迷惑になりますよね?」

「そうデスネ」

「私が怒るのと、貴方が試合するのとどちらが面倒ではないでしょうね?」

「・・・」




ここでの面倒は間違いなくれっちゃんにとってだ。

いや、れっちゃんが怒ると恐ろしすぎて逆に面倒かもしれないけど。

というか、こうやって考えることほど無意味なことはない。
なんせ、



烈様のお願いに拒否権はないのだから。








「はぁ…」



未だにギャーギャー騒いでる全員を頭を、恨みを込めて、叩いた。

お前らのせいで・・・っ!





「何すん――」

「試合」


胸ぐらを掴んできた更木の手をぱしっと叩いて、台詞は全無視で告げた。
あくまでダルそうに、だ。





「は?」

「気が向いたら試合してやるっつってんだよ。試合したいの?したくないの?」

「はっ。したいに決まってんだろ。今すぐだっていいぜ?」

「馬鹿か?気が向いたらって言っただろうが。とりあえず、いい加減コイツラを黙らせろ」



だが頼む必要もなく、二人は嬉しそうに、もとい好戦的な目でこっちを見ていた。

・・・は?
ちょっと待て。
誰がお前らとも試合してやるって言ったんだよ!誰が!




「忘れんなよ」

「お前こそ気が向いたらっていうのを忘れるなよ」


しっかり釘を刺しておこうと思ったのだが、目の前のこいつは返事をせずに鼻で笑いやがった。

・・・こいつ絶対忘れるつもりだ。



そこんところしっかりと分からせてやろうと思ったのだが、れっちゃんの手前これ以上問答を続けている余裕はない。

こんの・・・っ。
試合なんて誰がしてやるかって叫びたい。
今すぐ叫んでこいつら全員沈めたい・・・っ。

何もいえずに睨みつけていると、満足したのか、にやりと笑って奴は俺に背を向けた。



「おい。お前ら帰るぞ」

「はーい!更紗さん十一番隊に遊びに来てくださいよー!」

「今度俺とも試合しろ!」

「あ、自分だけズルいぞ一角!更紗さーん!僕とも試合してくださいねー!!」


と弓親が楽しそうに手を振っている情景を最後に、扉が閉まった。
扉の向こうからまだ声が聞こえてきている。
それもしばらくして消えていった。




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