まず最初に入ってきたのは、
「あ、更紗さんっ!!」
目の前の男を心配して来たはずなのに、俺の姿を見たら飛びついてきた、おしゃれまつげことちか。
んで、次に入ってきたのが、
「よう」
眩しいハゲこと角之助。
「あ、角之助もいたんだ。相変わらずツルピカだな!」
「さらっと笑顔で何失礼なこと言ってやがんだ!ていうかその呼び方止めろ!」
「誰に向かって命令口調なんだ?あぁ?」
「うっ・・・」
「・・・バカだよね、一角って」
「バカだよなー」
ちかと二人で調子を合わせていたら、とうとう角の助はキレたらしい。
確かに俺は角の助がキレた音を聞いた。
こう、ぶちっと。
「弓親テメェっ!!こいつの肩持ち過ぎだぞっ!」
「当たり前だろ。僕は美しいものの味方だ」
「お前このっ――」
ちかに突っかる角の助。
そんな角の助を、バカでも見るような目つきで自信満々にそう宣言したちか。
わーちかって正直者ー。
なんて自分のことは棚に上げて、観戦に徹することにした。
巻き込まれると面倒だし。
「だからっ―――」
「お前らいい加減にしろ!」
しばらく言い争いをしていた二人だが、誰が止めるよりもまず奴が真っ先に痺れを切らしたようだ。
額に青筋を浮かべて更木が怒った。
「隊長っ!一角が悪いんですよ!」
「はぁ!?弓親お前だろーー」
「ちょっ――」
ただ、怒鳴られたぐらいで引くような奴らじゃなかったけど。
耳を塞ぎたくなるほど、姦しい。
誰だ女三人で姦しいとか言った奴は。
男二人でも充分姦しいぞ。
うんざりしながらも眺めていたら、横からぽんと肩をたたかれた。
・・・嫌な予感がするんですけれども。
案の定、振り向けばとてもいい笑顔のれっちゃん・・・もとい烈様がいた。
「更紗」
「・・・」
「更紗」
「・・・・・・ハイ。何デゴザイマショウカ」
「騒がしいと他の患者の迷惑になりますよね?」
「そうデスネ」
「私が怒るのと、貴方が試合するのとどちらが面倒ではないでしょうね?」
「・・・」
ここでの面倒は間違いなくれっちゃんにとってだ。
いや、れっちゃんが怒ると恐ろしすぎて逆に面倒かもしれないけど。
というか、こうやって考えることほど無意味なことはない。
なんせ、
烈様のお願いに拒否権はないのだから。
「はぁ…」
未だにギャーギャー騒いでる全員を頭を、恨みを込めて、叩いた。
お前らのせいで・・・っ!
「何すん――」
「試合」
胸ぐらを掴んできた更木の手をぱしっと叩いて、台詞は全無視で告げた。
あくまでダルそうに、だ。
「は?」
「気が向いたら試合してやるっつってんだよ。試合したいの?したくないの?」
「はっ。したいに決まってんだろ。今すぐだっていいぜ?」
「馬鹿か?気が向いたらって言っただろうが。とりあえず、いい加減コイツラを黙らせろ」
だが頼む必要もなく、二人は嬉しそうに、もとい好戦的な目でこっちを見ていた。
・・・は?
ちょっと待て。
誰がお前らとも試合してやるって言ったんだよ!誰が!
「忘れんなよ」
「お前こそ気が向いたらっていうのを忘れるなよ」
しっかり釘を刺しておこうと思ったのだが、目の前のこいつは返事をせずに鼻で笑いやがった。
・・・こいつ絶対忘れるつもりだ。
そこんところしっかりと分からせてやろうと思ったのだが、れっちゃんの手前これ以上問答を続けている余裕はない。
こんの・・・っ。
試合なんて誰がしてやるかって叫びたい。
今すぐ叫んでこいつら全員沈めたい・・・っ。
何もいえずに睨みつけていると、満足したのか、にやりと笑って奴は俺に背を向けた。
「おい。お前ら帰るぞ」
「はーい!更紗さん十一番隊に遊びに来てくださいよー!」
「今度俺とも試合しろ!」
「あ、自分だけズルいぞ一角!更紗さーん!僕とも試合してくださいねー!!」
と弓親が楽しそうに手を振っている情景を最後に、扉が閉まった。
扉の向こうからまだ声が聞こえてきている。
それもしばらくして消えていった。
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