◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「死者はおらず、負傷者が十六名。更紗にしてはよく手加減出来ましたね」
「だろだろ?」
「面倒がられて、死者が出たらどうしましょうかと思っていたところです。あなたの技はただでさえ制御が難しいですから」
「・・・うっかり殺しちまいたかったけど、れっちゃん煩そうだったしなー」
四番隊は今、先の決闘で負傷した十一番隊の野郎共の手当てに追われていた。
きっとここぞとばかりに、みんな日々のストレスを発散しているに違いない。
時たま十一番隊の誰かの悲鳴が聞こえるし。
傷口に消毒液でもぶっかけたか。
負傷者十六人。
隊長一人に雑魚十五人。
さすがに戦闘部隊の隊長が重傷のままだと、色々と都合が悪いってことで、さっき俺が直々に治療してやった。
莫大な治療費を請求してやりたい所だ。
「それにしてもよくやってくれましたね」
「何が?」
「更木隊長以外の他の負傷者のことですよ。言い方を変えるとするならば、偶然戦闘に巻き込まれてしまった不運な十五人のことです」
「そりゃあもう、れっちゃんのお望み通り」
「あら、何のことかしら」
とぼけたように笑うれっちゃんに俺も笑い返した。
「とぼけちゃってまぁ。だから花太を寄越したんじゃないの?」
「そうでしたかしらね」
花太と十一番隊と言えば、当てはまる符合はただ一つ。
. .
「あいつらも不運だよなぁ。偶然戦闘に巻き込まれちまうなんてな」
. . . . . . .
「そうですね。偶然にも運良く、それが全員四番隊いじめの常習犯だったのは、私たちの日々の行いが良かったからですね」
「そうじゃねぇの?」
更木にはほんの少しぐらい悪いとは思っているが、いいタイミングで場を整えてくれことに感謝したい。
まぁ俺がわざわざ戦ってあげたうえに治療してやったんだから、チャラにしたいところだけれど。
「あいつらが不運だっただけだ」
不運にも隊長が俺に喧嘩を売って、
不運にも試合を観戦しに来ていて、
不運にも俺が隊長よりも強くて、
不運にも俺がキレて、
不運にも俺が剣を抜いて、
不運にも俺の力が暴走して、
不運にも巻き添えをくらって、
不運にも重傷を負うハメになったというわけだ。
「本当に不運でしたね」
「だな」
俺ら2人に目を付けられたのが一番の不運だろうなぁと、笑っているれっちゃんを見てこっそりと心の中で呟いた。
そんなやりとりをしていたら、救護室の方がにわかに騒がしくなった。
喧騒は荒々しい足音と共に、だんだんとこちら――隊首室に近づいている。
「お止め下さいっ!そちらは――っ!」
「うるせぇ!」
壊される勢いで開かれた扉。
そこから入ってきたのは、言わずもがな更木剣八その人だった。
「おい!どういうことだコレは!」
「どうって?」
「とぼけんじゃねぇよ。あいつらが何やってたかぐらいは一応知ってるぜ」
「ふーん」
ということはつまり、あいつらが四番隊いじめをしてたってこと知ってたんだよな。うん。
へぇー。
ただの馬鹿かと思ったら、意外と賢いじゃねぇかこいつ。
まぁとりあえず、
「ていっ」
「〜っ。何しやがんだテメェっ!」
「何って・・・敢えて言うなら撲殺?」
「死んでねぇ。ふざけて――」
「多分思ってる通りのことだよ」
「・・・どれのことだ」
だんだんと殺気が本気になってきたので、面倒くさいし、とりあえず話を元に戻してみた。
もっと正確に言うならば、さっきの質問に今答えてやったと言うことだ。
もう一度重ねる。
. . . . . . . . . . . . .
「お前が思った通りのこと全て」
「やっぱりテメェ最初っから本気だしてなかっ――」
「あ、そうだ。約束忘れんなよ」
さて、面倒くさい話は早々に切り上げて、俺としては調度良いし、本題に入ることにした。
あいつらに痛い目見さすのが目的だったけど、約束したものは約束したんだからここらへんはしっかりしとかないとな。
「約束」
「はぁっ?」
「はぁっ?じゃねぇよ。俺が勝ったら十一番隊が四番隊の奴隷になるって言ったじゃねぇか。まさか忘れてないよな?」
それでも戦いに賭けてる男かよ、と繋げてやれば、あら不思議。
更木さんの額に青筋が増えたじゃありませんか。
さぁどういう行動に出るかなと、じっと見つめていると相手は意外と冷静だった。
素直に認めたのだ。
まぁ、十一番隊が奴隷になって一番困るのは平隊員であって、席官や隊長じゃないからな。
そいつらを使おうとか思うのは俺とれっちゃんくらいだろう。
「・・・約束は守ってやる。だからもう1回勝負しろっ!」
「嫌。だるい。疲れる。面倒くさい」
やる気を失う三大原則が揃ってしまったら、もう無理だ。
俺は絶対動かない。
俺が保証する。
そもそも俺は俺の目的を果たしたのに、何でわざわざもう一回この俺が戦わなきゃいけねぇんだよ。
「テメェ・・・」
「隊長!」
「ここにいたんですか・・・」
怒りに震える更木をどうやって沈め・・・じゃなかった、鎮めようかと考えていると、また荒々しく開かれた扉。
今度はつい最近知り合った面白二人組が入ってきた。
何だか少し疲れた様子。
怪我人は怪我人らしく救護室にいるべきだよな。
うん。
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