始解    [ 32/64 ]

眩い閃光。
肌を焼く熱風。
地響きは鳴り、周りの音を一瞬掻き消した。

その全てが止んだ時、大きな穴が出来ていた。

その穴の底には焼け焦げた人の姿。




――それは一瞬の出来事だった。

後に誰かがそう言った。





静まり返る観客。







「観衆のために魅せる戦い?白熱の息もつけぬ戦い?はっ、俺がそんなことすると思った?面倒臭い」


. . . . . . . . . . .
まだ終わってはいないが、これからのことも含めてそう言った。
爆風で乱れた髪を手で整えながら、鼻で笑いながら。





「真面目に戦うことすら俺には面倒くさいんだよ」



誰も何も言わなかった。
. . . . . . . .
何も言えなかった。





「お、おい。今アイツ赤火砲って言わなかったか?」

「嘘だろ・・・。本当に鬼道一つで」

「しかも詠唱破棄かよ・・・」

「隊長・・・!」

「誰か嘘だと言ってくれ・・・っ」



静まり返っていた野次馬共もやっと状況が飲み込めたのか、ざわざわと騒ぎ始めた。

詠唱破棄がどうした。
考えたら分かるだろう?
俺は詠唱するのも面倒臭いと思うような人間なんだから。
分かってないなぁお前ら。


ざわめきは大きくなっていき、この場は音の大洪水に飲み込まれた。







「まだだ・・・っ!」





その中で一際大きくあがった声。


発信源は大穴の底。

更木剣八が立ち上がっていた。
殺気をみなぎらせて。





「ふぅ・・・良かった」



良かった。
まだ意識があったみたいだ。
間違って一発で気絶させてしまったかと思った。
見た目頑丈そうだからちょっと強めに撃ったし。

本当に良かった。

. . . . . . . . . . . . .
これで計画通りに進められる。



「まだ終わっちゃいねぇぞっ!!!!」

「・・・さてと」

「刀をぬけ!!」

「はぁ・・・」



切りかかって来たのを全て避ける。

さっきよりも殺気立っていた。
どうやら鬼道だけで戦ったことが不服らしい。
これだから戦闘馬鹿は面倒くさい。
戦い方にいちいちケチつけやがる。

戦い方なんて、個人の自由なんじゃねぇのか?
正々堂々としたものをお望みなら、道場で竹刀でも振ってろ。

水平に切りかかってきたのを上に飛ぶことで避け、そのまま突き出された刀の上に着地した。

その状態で、面倒くさくなってきたなーと、ぼーっと突っ立っていると、刀で戦えとか周りもギャーギャー騒ぎ出した。


あぁ・・・うるせ。

言われなくてもそのつもりだ。
. . . . .
最初っから。



ただ、俺は文句をつけられるのが一番嫌いなんだよ。





「黙れよ。うぜぇな」


抑えていた殺気を一気に爆発させた。
ざわめきが一瞬にして止む。


くるりと更木の刀から飛び降りた。
そしてゆっくりと剣を抜く。


そういえば、こいつを抜いたのもえらく久しぶりな気がする。



「ギャーギャーギャーギャーとうるせぇんだよお前ら。人語忘れたのか?理解出来る言語でものを言え。まあ、いいぜ。そんなに言うなら抜いてやろうじゃねぇの」

「そうこなく―――」
      . . . .
「その代わりテメェらも構えとけよ」




. . . . . . .
もう場は整った。



切り結んできたのを今度は正面から刀で受ける。

純粋な力と力のぶつかり合い。
キリキリと音を立てる刀。






やるなら今しかない。









「殺せ 



        烏兇」









無音の世界だった。

悲鳴も、呻き声も、断末魔も、何も聞こえなかった。
黙って立っているか、血を流し倒れているかの二択の世界。





ただ、黒い羽根が雪のようにしんしんと降り積もる中、




――気が向いたら治療してやるよ。




そう言った俺の言葉だけが、響いていた。




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