眩い閃光。
肌を焼く熱風。
地響きは鳴り、周りの音を一瞬掻き消した。
その全てが止んだ時、大きな穴が出来ていた。
その穴の底には焼け焦げた人の姿。
――それは一瞬の出来事だった。
後に誰かがそう言った。
静まり返る観客。
「観衆のために魅せる戦い?白熱の息もつけぬ戦い?はっ、俺がそんなことすると思った?面倒臭い」
. . . . . . . . . . .
まだ終わってはいないが、これからのことも含めてそう言った。
爆風で乱れた髪を手で整えながら、鼻で笑いながら。
「真面目に戦うことすら俺には面倒くさいんだよ」
誰も何も言わなかった。
. . . . . . . .
何も言えなかった。
「お、おい。今アイツ赤火砲って言わなかったか?」
「嘘だろ・・・。本当に鬼道一つで」
「しかも詠唱破棄かよ・・・」
「隊長・・・!」
「誰か嘘だと言ってくれ・・・っ」
静まり返っていた野次馬共もやっと状況が飲み込めたのか、ざわざわと騒ぎ始めた。
詠唱破棄がどうした。
考えたら分かるだろう?
俺は詠唱するのも面倒臭いと思うような人間なんだから。
分かってないなぁお前ら。
ざわめきは大きくなっていき、この場は音の大洪水に飲み込まれた。
「まだだ・・・っ!」
その中で一際大きくあがった声。
発信源は大穴の底。
更木剣八が立ち上がっていた。
殺気をみなぎらせて。
「ふぅ・・・良かった」
良かった。
まだ意識があったみたいだ。
間違って一発で気絶させてしまったかと思った。
見た目頑丈そうだからちょっと強めに撃ったし。
本当に良かった。
. . . . . . . . . . . . .
これで計画通りに進められる。
「まだ終わっちゃいねぇぞっ!!!!」
「・・・さてと」
「刀をぬけ!!」
「はぁ・・・」
切りかかって来たのを全て避ける。
さっきよりも殺気立っていた。
どうやら鬼道だけで戦ったことが不服らしい。
これだから戦闘馬鹿は面倒くさい。
戦い方にいちいちケチつけやがる。
戦い方なんて、個人の自由なんじゃねぇのか?
正々堂々としたものをお望みなら、道場で竹刀でも振ってろ。
水平に切りかかってきたのを上に飛ぶことで避け、そのまま突き出された刀の上に着地した。
その状態で、面倒くさくなってきたなーと、ぼーっと突っ立っていると、刀で戦えとか周りもギャーギャー騒ぎ出した。
あぁ・・・うるせ。
言われなくてもそのつもりだ。
. . . . .
最初っから。
ただ、俺は文句をつけられるのが一番嫌いなんだよ。
「黙れよ。うぜぇな」
抑えていた殺気を一気に爆発させた。
ざわめきが一瞬にして止む。
くるりと更木の刀から飛び降りた。
そしてゆっくりと剣を抜く。
そういえば、こいつを抜いたのもえらく久しぶりな気がする。
「ギャーギャーギャーギャーとうるせぇんだよお前ら。人語忘れたのか?理解出来る言語でものを言え。まあ、いいぜ。そんなに言うなら抜いてやろうじゃねぇの」
「そうこなく―――」
. . . .
「その代わりテメェらも構えとけよ」
. . . . . . .
もう場は整った。
切り結んできたのを今度は正面から刀で受ける。
純粋な力と力のぶつかり合い。
キリキリと音を立てる刀。
やるなら今しかない。
「殺せ
烏兇」
無音の世界だった。
悲鳴も、呻き声も、断末魔も、何も聞こえなかった。
黙って立っているか、血を流し倒れているかの二択の世界。
ただ、黒い羽根が雪のようにしんしんと降り積もる中、
――気が向いたら治療してやるよ。
そう言った俺の言葉だけが、響いていた。
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