ハゲとまつげ    [ 30/64 ]

「隊長が…」

「美しい…」

「…弓親。いい加減帰ってこい」

「うるさいよ一角。はぁ…美しい…」

「弓親テメッうるさいって何だ!うるさいって!?横ではぁはぁはぁはぁ、お前のため息の方がうるせえっつーの!!」

「ちょっと!人を変態みたいに言わないでくれる?うるさいからうるさいって言ってるんでしょ。静かにしてよ。僕今幸せに浸ってるんだから」

「なっ、テメェ…」





うん。






「「お前ら二人ともうっせぇんだよ。ちょっと黙ってろ」」

「「…はい」」


さっきからずーっと思ってたけど(敢えて無視してたけど)、

なんだこの外野は。

外野のくせに個性が濃いーなオイ。

いい加減イライラしてきてそれにキレたら、更木とやらと声が重なってしまった。
(面白いことに口の悪さまで被った)


え、というかちょっと待て。
この外野…





「すっげぇー!マジでつるつるだー!!何これ何これ!」

「ただのハゲだよ。更紗さん」

「そっか。ハゲか〜」

「ハゲじゃねぇっ!!」



目の前にハゲがいたら撫でるしかない。
ハゲじゃない方も言った通り、これはハゲだ。
間違いなくハゲだ。


うわ〜マジこの触り心地おもしれ〜。
つるつる。

滅多にできない経験を堪能していた俺は、もう1人の方が名前で呼んでいたことに気付かなかった。

気づいていたらまだちょっとは身構え出来ていたはずだ。
…たぶん。





「それより一角なんて放っておいて、」

「ん?」


満足がいっていい加減手を離した瞬間、がしっと両手を握りしめられた。
目の前にハゲじゃない方がいる。


え、何かお前顔近くないか?
ていうか何顔赤らめてんだよ。




「更紗さんっ!」

「!」

「噂には聞いていたけれど、こんなに美しいなんてっ!」

「え、あ、」

「是非十一番隊に来てください!」

「は?」

「貴方みたいな人こそ十一番隊にふさわしいっ!あんな美しさも何もない、むさくるしい隊には貴方のような人が―――」

「いやいやいや、ちょっと待て。仮にも同じ対の仲間がいるってのに」


暴走する目の前のまつげに思わず、この俺が真面目に常識を説いてしまった。

恐るべし暴走まつげ。

とりあえず、一呼吸する。
落ち着けば大丈夫だ。
だんだんとこいつのペースにも慣れきたし。





「…とりあえず、どっちかお前の副官か?」

「違う」


一緒についてきたのだし、と思って更木とやらに聞いてみたのだが、答えは否だった。

この2人の上に立つ奴で、そんでもってこの眼帯の下につく奴?

なんか個性強そう…。




「草鹿副隊長は今日は非番なので、お休みです!」

「あ、そう」



男かな?女かな?

十一番隊だから男の確立の方が高いよな…。
会いたくないな。うん。




「僕は十一番隊第五席、綾瀬川弓親です!」

「…五席?」

「どうかしました?」


本人の申告に引っかかって、思わず疑問の声をあげてしまった。

どうみたって五席って感じじゃないのにな〜。
まぁ偽ってるって感じじゃないし、仮に偽ってたとしても俺には関係ないか。




「いや、別に」

「で、そっちのハゲは?」

「誰がハゲ―――」

「こっちは三席の斑目一角です!」


青筋を立てるハゲを押しつぶして、きらきらとした目で紹介してくるまつげ。



あぁ〜なんというか、





「犬っぽいなお前」

「へ?」


うん。
犬っぽいと思えば可愛いと思えないこともない。



「弓親…ゆみちか…。じゃあ、ちかで決定」

「そっちのハゲは一角だし、角之助でいいだろ?」

「一角だしっていう意味が分かんねぇよ!」

「あぁ…。細かいとこ気にしてるからハゲるんだよ」

「なんだよそのかわいそうなものを見るような目つきはっ!!これはスキンヘッドだ!」

「ハゲの人はみんなそう言うよね」

「ちか、いいこと言うね〜」



そのまま3人でギャーギャー騒いでいたら、とうとう奴が痺れを切らしたらしい。




「おい。いい加減にしろよテメェら」

「あぁ?わざとに決まってんだろ。わざとに」

「いい度胸だな。俺と戦え」

「強引に話戻したなぁ〜…」

「戦え」


これ以上話を延ばしても無駄なようだ。

ざっと見たところ四番隊の面々は、烈ちゃんたちを残してほとんどが避難している。
そして、隙間から伺うような視線がちらほらと。

…俺は人身御供ってわけか?
ったくマジで面倒くせぇーっ!


分かってはいたが、面倒臭さが上がった。


「戦うのか?どうなんだ?」

「はぁ…ものすご〜く面倒臭いけど、仕様がないし受けてやるよ」




たまに外に出ると面倒なことがおきる。

これだから外に出たくないんだよ。
ひきこもり生活に戻ろうかなー…。




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