「藤城更紗。ただいまもどりました〜」
勢いよく扉を開けて、やる気のない挨拶を一つ。
(やる気のある挨拶なんてしたことないけど気分の問題だ)
それと同時に、俺の首元を正確に狙ってきた刀を指で挟んで受け止めた。
隣りで花太が青くなった。
速さは上々。狙いも正確。
なかなかの手練れだと分かる。
が、そんなことはぶっちゃけどうでもよくてだな、
何処のどいつだ俺の花太をビビらしてんのはコラァ。
「お前が藤城更紗か?」
隣から声が聞こえる。
こいつか花太をビビらした奴は。
「へぇ、アイツなかなかやるじゃねぇか」
「………う、美しい」
「……は?」
「お前が藤城更紗かって聞いてんだよ」
俺の方が身長低いんだと言わんばかりに見下ろされるのも、値踏みするような視線もムカつく。
すっげぇムカつく。
何より偉そうな態度がムカつく。
何様のつもりだよオイ。
目下それが一番頭にきた。
だから、
「見も知らぬ野郎に名指しされんのって何か無性にどうしようもなく本当にイラっとくるよな!」
とりあえず、にこおと笑ってそう返してやった。
花太をビビらしたんだからそれ相応の対応をしてやんねぇとな。
(俺の癒しを害する奴はぶっ殺す)
「はっ、言うじゃねぇか」
「残念ながら俺の口は事実を言うためにしか開かないんでねぇ。俺正直者だから?」
「ほぉ?」
挑発するような発言がまずかったのか(挑発する気満々だったが)、どうやら俺は美味しそうな獲物に認識されてしまったらしい。
先程より殺気の質が濃くなった。
青ざめた花太を後ろに庇って、出来るだけ殺気を浴びないように霊力で中和する。
あちゃ〜忘れてた忘れてた。
こいつ戦闘狂だっけ?
扱いづれぇなオイ。
マジめんとくせ…。
「あいつやるじゃねぇか。初対面で隊長にあんな口きく奴がいたとはなぁ」
「美しい…」
「・・・」
あー…何か聞こえるけど、ひとまず置いといて。
「…何か御用でございましょーか、更木さんとやら?」
茶化すようにそう言った後、横を向いて更木さんとやらと対面すると、あらびっくり。
いつぞやの眼帯がそこにあるじゃありませんか。
だから俺は思わず――
「うげっ。うっわ〜嫌なもん見た…」
「あ゙ぁ゙?テメェ…」
「勝手に勘違いしてんじゃねぇよ。俺が言ってんのはその眼帯だ。がーんーたーい」
「は?」
「今のところ俺の忌まわしき思い出の五指には入ってるぞ、それ。うわ〜…そんな酔狂なもん付ける馬鹿が本当にいるのかと思ってたけど、マジでいたよ…。
んで、その眼帯はどうだ?付け心地は?ちょうどいいか?1日の霊力消耗量はどれくらいだ?最初のころと比べて変化はないか?」
「…いきなり何言ってやがる」
思わず矢継ぎ早に質問をあびせてしまった。
そこらへんは、半研究者としての性だからしょうがない。
見たところ正常に機能しているようだ。
まあ、なんせ俺様があそこまで体張って調整してやったんだからな。
異常なんて億が一にもありえねえけど。
はあ…それにしても、この眼帯にもう一度出会ってしまうとはなぁ…。
正常に機能してるかどうか、一応この目で確かめられたのは嬉しい。
嬉しいが、異常に機能しててもいいから、正直もう二度と目にしたくなかった。
矛盾してるがこれが素直な気持ちだ。
ったく…やなこと思い出させられた。
よし忘れよう。さっさと忘れよう。十秒で忘れよう。
臭いものは消し炭に、嫌なものは記憶抹消。
なんて素敵な俺の生き方。
「調整はいらないようだから、はいこの話終了!正常万歳!」
「ふざけてんのかテメェ」
何だよ人が話題切り上げようとしてんだから察しろよオイ。
空気読めねぇ奴だな。
ちっ、十秒たっちまったじゃねぇか。
しかも、真面目に仕事してるこの俺様のどこがふざけてるって?ああ?
むしろそんな粋狂なゲテモノ眼帯付けてるテメェの方が、よっぽどふざけてるっつーの。
「ふざけてなんかねぇよ。製作に携わった者としては、状態が気になるわけ。了解?」
「製作?」
「何?阿近から聞いてないわけ?」
「知るかよ」
「俺は………あー、やっぱめんどくさいからいいや」
「は!?」
話題の路線を別方向に持っていけたから説明してやろうと思ったが、何となく面倒臭くなってやめた。
説明って得てして長台詞になるからな。
気が向いた時じゃないとやる気出ないな。うん。
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