「更木隊長が、四番隊に押し掛けてきたんですっ!」
慌てて飛び込んできた花太はそう叫んだ。
更木…ざらき…
「誰だったっけ?」
思い出せなくて首を傾げると、後ろで阿散井がこけた。
うん。
リアクションだけは及第点だな。
「はあっ!?さっき説明したじゃねぇ…スかっ!!」
さっきまでの元気を取り戻したのか、はたまたツッコミが習い性になってしまっているのか、また怒鳴られた。
でも、さっきの脅しがまだ尾を引いていたのか、取って付けたような敬語がちょっとムカついた。
ツッコミいれるなら最後まで貫けよ。
中途半端な奴め。
「うっせぇな。俺は興味のない奴の名前は十秒以内に忘れるようにしてんだよ」
自分の感情に忠実にムカツキを発していると、後ろから可愛らしくぽんっと手を打つ音が聞こえた。
「あ、そうでした。更紗さんは知らなかったんでしたね。慌ててたんでうっかりしてました」
すいませんと苦笑する花太。
そんな姿を胸を射抜かれる。
何で花太はこんなに可愛いんだ…っ!!
ここの赤髪とは大違いだ!
「いや、花太は全然悪くない。悪くないよ。悪いのは、俺の意識に残らなかった印象の薄い更木って奴だから。存在感がない更木って奴だから。で、更木って何処の誰さん?」
ひしっと抱き締めて頭を撫でてあげながら、穏やかに問い掛けた。
花太の癒し効果で自然と顔も緩む。
「………隊長」
「…兄上はああいう人だ」
背後では、俺の不条理っぷりに打ちのめされた阿散井が、白坊に泣き付いていた。
やべぇ…。
こいつ、いじると面白えっ!!
阿散井の楽しみ方を見出だした俺は、俺の中での順位を秘かに上げてやった。
名前を忘れることもないだろう。
輝いた瞳で阿散井を見る俺に気付いた白坊は、哀れみの眼差しを阿散井に向けていた。
さすが白坊分かってる〜。
そんな俺たちのやり取りに気付いていない花太は、俺にその“更木”とやらの説明を必死でしてくれていた。
「えっと、更木隊長って言うのはあの十一番隊の隊長で…」
「あぁ!なんか俺探してるって奴?」
そこまで言われてやっと思い出した。
と言っても『そういえば、そんな話も聞いた気がする』程度だが。
「はい。そうで……ってですから、その更木隊長が更紗さんを探しに四番隊に来てるんですってばっ!!」
話している途中で本来の目的を思い出したようで、また慌てだした。
それを、またぽんぽんと頭を撫でて宥める。
向こうに行く前に聞きたいことはまだいくつかある。
「ちなみに、れっちゃんは何って?」
「『最近目に余る行為が増えてきましたし、そろそろ身の程をわきまえさせましょうか』…と」
疑問形なように聞こえて、実は断定系だ。
多分。
言葉だけなのに、室温が少し下がった気がした。
しかも、それを言ったのが癒し代表の花太だとしてもだ。
花太の力を持ってしても補いきれないほどの黒さ。
…恐るべし、れっちゃん。
つまりはアレだ――
「…舐めんじゃねぇよ雑魚共が、状態?」
「ですね…」
「だよな」
顔を見合わせて苦笑し合う。
こういう時のれっちゃんは、れっちゃんというよりむしろ“烈様”だ。
ざっくりさっぱり容赦なく斬るくせに、自分の手は汚さないっていう…
そして、その為に大抵俺が使われるって。
まぁでも、そろそろ十一番隊に釘を刺す頃合いだとは思ってたし、何よりれっちゃんのお願い(という名の命令)には勝てないから、選択肢は唯一つだ。
唯一つ…
ものすご〜く面倒臭いんだけど、
ものすご〜くやりたくないんだけど、
ものすご〜く嫌な展開になりそうだけど、
「…分かった。面倒臭いけど出向いてやるか」
「ありがとうございます!」
「花太を向わせる時点で俺に来いって言ってるようなものだし」
花太を寄こしたことにも何か意味があるだろうが、一番はやっぱ俺を釣るためだろうな…。
花太以外の奴だったら絶対ついて行かない自信がある。
そこらへんは、長年の付き合いで熟知されてしまっていた。
あぁ、やっぱ面倒臭い。
「はぁ…」
「兄上…」
「ちょっくら行ってくるわ」
もうどうにもならないことなので、ふうと溜め息を吐いて残っていたお茶を飲み干し、あるべき場所に帰ることにした。
「た、隊長…っ」
「更紗…」
「これくらいで怒ってるようじゃ器が小さいぞ」
何となく八つ当たりで白坊の頭をぐちゃぐちゃに弄り回してから。
不貞腐れているような顔(熟練の断定が必要)を見て少し気分がマシになった。
よしっ。
「んじゃあまあ、お茶ご馳走さん。また茶飲みに来るわ」
ひじょ〜うに面倒臭いが、
日頃世話になっている四番隊への恩返しということにしておこう。
俺がわざわざ出向いてやるんだ。
覚悟してろよ更木。
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