「はいはい。俺が現在巷で人気の噂絶好調な藤城更紗君ですけど?」
面倒臭さのため、かなりなげやりな感じで問い返すと、
「あ、あんた、こんなとこで何やってるんすか!?早く逃げねぇとっ!!」
「…は?」
急に立ち上がったかと思ったら、予想と全く違った言葉が返ってきた。
逃げる…?何から?
意味が分からないから、間の抜けた返事しか返せない。
咄嗟に、倒れそうだった湯呑みを片手に持ったままなので、余計に間が抜けて見えるだろう。
話が気になるので、そのままの状態で続行。
「逃げるって誰から?」
「更木隊長からですよっ!!」
更木?誰それ?
阿散井は、名前さえ言えば全てが伝わると思っているみたいだが、俺は興味ない人の名前は覚えない主義だ。
そもそも最近、四番隊と阿近以外の人に会ってない気がするのだが。
何せ俺は一年の九割は引き籠もっている人間だ。
重國とか十四郎とか春水みたいな古株ならまだ分かるが、最近入って来た奴らについてはからっきし駄目。
(足繁く四番隊に通ってこない限りは、だが)
とりあえず、俺はそんな名前の人に恨みを買った覚えはありません。と。
なら逃げる必要はないな。
てか例え恨み買ってても、逃げる必要ないじゃん。
戦うか逃げるかで言うと、逃げる方が面倒臭い。
面倒臭いことはやりたくない、つまり逃げるのは却下と。
「ふ〜ん。あ、そう」
自分で勝手にそう解決して、片手に居心地悪そうにしている湯呑みに口をつけて、のんびりとお茶をすすった。
さすがは白坊。
香りよし味よしのお茶だ。
あ……、そういえばそろそろ四番隊に帰らなきゃな〜。
あ、でも書類の届け先が白坊ってことは、これって白坊に会わせる為っていう確立が高いか。
珍しく頼まれたから何かあるとは思ってたけど。
ならまだゆっくりできるか、と茶菓子に手を伸ばしたら、その前に阿散井に容器ごと全部取り上げられてしまった。
「…何?」
「何でそんなに落ち着いてるんすか!?」
終わった話が蘇ってきた。
阿散井は納得していなかったようだ。
というか、俺の茶菓子を返せ。
「だって逃げるの面倒臭いし。というかまず、更木って誰?」
「はあ!?ちょっ、あんた何言ってんすか!?更木隊長って言ったら、あの更木隊長に決まってるじゃないですかっ!?十一番隊隊長の!」
ものすごく信じられないものでも見るような目で見られた。
何で俺が自分の隊以外の隊長覚えるとか、そんな面倒臭いことしないといけないんだよ。
十四郎と春水とれっちゃんととーしろーと白坊は別だけど。
あぁ〜、なんか無性に腹が立ってきた。(←逆ギレ)
「あぁもう鬱陶しいな…。知らねぇもんは知らねぇっつってんだろうが。だいたい何で俺が見も知らぬ野郎の都合で逃げなきゃいけねぇんだ?あぁ?テメェ何様のつもりだ?」
怒り心頭に発するといった状態だった。
俺の怒りに反応して、普段は平死神程度に抑えている霊圧が一気に上がり、その場の密度を急激に高め、圧迫した。
「……っく!?」
驚愕の眼差しで見つめてくる阿散井の姿も、面白いと思う前に苛立ちへと変わっていく。
ほんと、面倒臭い。
とりあえず、こいつ喋れなくすればいいかな…?
「……更紗」
「何?」
如何にして目の前の男の口を開けぬようにするかと思案する中、六番隊隊長が冷静に呼び掛けてきた。
霊圧を上げたといっても、たかが隊長級程度なので、顔色一つ変えることはない。
そんな白坊の態度に、もう少し霊圧を上げてやろうかという考えがよぎる。
だが、幸運なことにそれは実行されなかった。
「恋次はどうでもよいが…、よいのか?」
「何がだよ」
「兄の癒しとやらが、もうすぐこちらに辿り着くぞ」
「は?」
白坊の言葉に周りの気配を探ってみると、確かに花太がここに向かって走ってきているのが感じ取れた。
何故、白坊が俺の癒やしの存在を知っているのかと疑問に思ったが、まあ噂で知ったのだろうと完結する。
そんなことより、このままだと六番隊に辿り着く前に、俺の霊圧にあてられて花太が昏倒してしまうかもしれない。
一応、こういう時の為に手は打ってあるから、大丈夫だとは思うけれども、万が一があるかもしれないし。
何より、こんな霊圧が高い中を移動させるなんて、花太がかわいそうだ。
もう何人か倒れているその他大勢はどうでもいいとして。
そう考えて、あっさりと霊圧を平死神程度に戻した。
そして、何事もなかったかのようにお茶を啜る。
花太早く来ないかなー。
「更紗さんっ!!」
約一名だけが苦しい沈黙が流れること数瞬、慌てた様子の花太が飛び込んできた。
「更紗さんっ、大変で――うわっ?!」
「はぁ〜癒される〜」
何か言おうしていたのを無視して、癒されることに専念した。
花太に抱きついて、安らかな気を堪能する。
あぁ〜マジ癒される〜
マジ可愛い。
花太が来なかったら、隊舎が一つなくなっていたかもしれなかったので、大助かりだった。
れっちゃんのお説教は出来るだけ避けたいからなー。
「で、何が大変なんだ?」
「あぁっ!そうです!大変なんです〜!!」
「落ち着け落ち着け」
ぽんぽんと背中を叩いて、落ち着きを促してやる。
一息吸った花太は、あまり落ち着いたようには見えないけど、『大変』なことを告げた。
「更木隊長が、四番隊に押し掛けてきたんですっ!」
…更木って誰だっけ?
(2008.02.21)
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