タッタッ…
キョロキョロ
「そっちじゃねぇ!右だ右!」
「右……。あれ、右ってどっちだっけ?こっちか?」
てくてくてく
「逆だ!右っつったら利き手の方だろうがっ!」
「え〜でも隊長〜、左利きの人もいますよ?」
「ちなみに俺両利き〜」
てくてくてく
「お前らな…。じゃあ……今踏み込んだ足の方だ」
「ああ、こっちか!」
バタバタバタバタ――…
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「疲れた…」
「とーしろー大丈夫か?」
「隊長、大丈夫ですかぁ?」
現在地は六番隊の隊舎前。
素晴らしいことに、俺は目的の六番隊に無事に、かつ短時間(自分にとっては)で到着できたのだった。
これもとーしろーと乱ちゃんのおかげである。
だけど、とーしろーは何だかお疲れのご様子だ。
乱ちゃんはすこぶる元気だと言うのに。
「とーしろー、どうしたんだ?」
「どうした、だと…?おっ前な、ぁ、…普通に移動するのに道を行かず庭園を横断しようとしたり屋根伝いに行こうとしたりする奴がどこにいるってんだよ!!挙げ句の果てに右って言ってんのに左に行きやがるし!!今だに右左分かんねぇのかっ!!そもそも四番隊ならどこよりも地形に詳しいんじゃねぇのかよ!!それとも何か?お前はわざと俺の逆を行きたいのか?!」
とーしろーは、この俺が怯むくらいの凄い剣幕でそう言った。
言い終わった後は息遣い荒く肩で息をしている。
とりあえず、怒られてるのは間違いなく俺だよな?
とーしろーに怒られた…
とーしろーに…
「…ごめん、な?」
「い、いや別に…。怒鳴って悪かったな…」
「しおらしい更紗可愛いっ!」
癒し相手には素直な俺は、とーしろーに怒られたことがショックで気落ちしながら素直に謝った。
さすが俺の癒し、謝ったらとーしろーも気まずそうに謝ってくれた。
「やっぱとーしろーってかわいい!」
「隊長ー、もうちょっとしおらしい更紗を鑑賞させてくれたっていいじゃないですかぁー」
「だーかーらっ、抱きつくなって、というか松本お前なぁ…「騒がしいと思ったら兄達か」」
そうやって俺らが(一方的に)とーしろーにじゃれていると、背後から感情が乏しい、けれど少し呆れが混ざったような声がした。
とーしろーに抱きついた姿勢は崩さず視線だけを後ろに向ける。
「朽木か…すまなかった」
ばつが悪そうにとーしろーが答えた相手は、俺よりもデカかった。
それにしても、
朽木?
朽木…朽ち木、、、
朽ちる木と書いて朽木…‥
くーちーきー…
. .
ああ!朽木ってあの朽木か〜!
どうりで俺でも知ってると思った。
昔よく遊んであげたあの子、元気かなぁ〜
鬼事とかして遊んだっけ。
「俺達は、無事にここまで送り届けてやったから戻るぞ」
「「ええ〜」」
回想に耽っていたせいで腕の力が緩んだ隙に、とーしろーが逃げ出してしまった。
不満の声を上げると乱ちゃんと声が重なった。(多分乱ちゃんは仕事に戻るのが嫌なだけだと思うけど)
そんな美女2人(何気に自分もいれてみたり)が引き止めたにも関わらず、とーしろーは乱ちゃんを連れて、スタコラサッサと自分の隊へ戻って行ってしまった。
「・・・」
その場に残されたのは、美女2人の内の1人こと俺と――
「・・・」
朽木さん(仮)だった。
てかだんまりは止めようよ。
空気重いぞ。どうでもいいけど。
そこで思い出したのだけれど、俺は書類を届けにここまで来たんだった。
さっさと渡してさっさと帰るか。
「朽木さ〜ん(仮)。四番隊から書類を持って来ました〜」
背中を向けていた格好から真っ正面に朽木さん(仮)に向き直って、書類を差し出した。
「・・・」
何故か受け取ってもらえなかった。
それどころか、かなりガン見されている。
ん?俺は朽木さん(仮)に失礼なことした覚えはないぞ?(朽木さん(仮)の時点で失礼だとは思っていない)
しばらく沈黙。
というかいつまでガン見してるつもりなんだよ。
それとも寝てるのか?
朽木さん(仮)は実は立ったまま寝ちゃえるお茶目な人だったりするのか?
「お〜い。起きてますかぁ〜?てか生きてますかぁ〜?」
目の前で手を振ってやって生存確認。
「……兄、上?」
やっと反応が返ってきた。
驚愕という銃弾とともに。
兄上って兄上?
俺生まれてこのかた弟おろか妹さえもったことねぇぞぉ?
結論――
「人違い?」
「・・・」
さらりと流すことにした。
納得がいかないといった顔でいる朽木さん(仮)に、今度は無理矢理書類を押し付け、踵を返した。
霊圧を探って四番隊の位置を割り出して、そこに向かって直進する。(文字通り直進)
いやぁ〜それより驚いたなぁ〜
まさか見知らぬ人に兄上って呼ばれるなんて滅多にない経験だよな。しかも超真面目そうな奴に。
間違えるってことは顔が似てるってことだよな?
朽木の兄上に似てるんだ俺って。
アレ?朽木?兄上?
まさか―――!
つつつとそのまま後向きに歩いて、朽木さん(仮)の前まで戻った。
顔を、ぎこちない動きで朽木さんの方へ向けた。
「まさか、白坊だったりする?」
「…更紗、その呼び方は…」
この反応、まさしく俺の知っている白坊だった!
さっき人違い?と聞いたことなんてころって忘れて、久しぶりの再会に喜んだ。
「うっそ!マジで!うわぁ〜お前いつから死神になったんだ?何だよそれなら教えろよぉ〜!」
白坊に抱きつきながら(珍しく面倒臭がらず)思い付くままに喋りかけた。
周囲に誰かいたとしたら、音符が飛んでいるのが見えただろう。
それくらい俺は上機嫌だった。
笑顔を大盤振舞するくらいに。
「・・・」
だけど、慣れているのか(阿近が言うところの免疫があるのか)白坊は無反応だった。
否、無反応という訳ではないようだ。
視線がほんの半寸ほどずらされていた。
どうやら照れているらしい。
大人になって更に読みにくくなった白坊の表情。これはこれで楽しかったりする。
「立ち話もなんだから六番隊にお邪魔してもいいか?」
「ああ」
懐かしき友との再会は思わぬ場所だった。
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