名前を知らないなんて一大事は、何事よりも優先されるという俺的理論に基づいて、さっきまで説明がどうのこうのとかいう思考はさっぱり忘れて、少年に名前を聞いた。
「はあ?!何で「はいは〜い!美人さんは名前何なんですかぁ?」」
少年は驚いたような呆れたような怒ったような複雑に入り交じった感情を声に出した。
それは今までの話をすっぱりと流したことに対してなのか、はたまた他隊であろうが隊長の名前を知らなかったことに対してなのかはわからない。(両方かもしれないし)
ただ、お姉さんが少年の言葉を遮って、挙手制よろしく元気に手をあげて質問してきたので、結局どっちだったかはわからずじまいだった。
「あれ?俺名乗ってなかったっけ?俺は、藤城更紗。四番隊の一死神。よろしく!」
「えぇっ!!!!」
名乗ったらお姉さんにものすごく驚かれた。
そんなお姉さんの様子に少年も驚いてる。
「何驚いてんだ」
「だって四番隊の藤城更紗って言ったらあの噂の人ですよ!?うわぁ〜ラッキー♪滅多に外に出てこないって聞いてたのに〜!」
まるで珍獣扱いだな。
「噂?あぁあの『四番隊最終兵器』とかいうやつか?」
「それも聞いたことありますけど、私が聞いたのは『告白しようとしたら暗殺されかける』とか『私物は裏で高く売れる』とかですよ?」
少年もお姉さんも噂を聞いたことがあるらしい。
しかもまた違う話題・・・
最終兵器って何だ。最終兵器って。
俺はもはや兵器扱いなのか?
暗殺は…知らない方が自分の為だろう。(確実にれっちゃんが絡んでる)
大げさに言ってるだけで殺されてはいないだろうし。
……多分。
そんなことより、昔から物がよく無くなるのは売られてたのか。(せめて利益の一割ぐらい寄越せよな)
「…ってお姉さん何してんの?」
「えへ………あっお姉さんじゃなくて松本乱菊よ。気軽に乱ちゃんって呼んでいいから☆」
えへ気付かれちゃったなんて笑って、何事もなかったかのように会話を続けるお姉さんこと松本乱菊さん。
俺もさっきの噂聞いてなけりゃ別に気にしないんだけど…
「はいはい。えへじゃなくて、何をしてるのかな?」
だが、その静止も遅く、高い位置で一本に結っていたはずの髪が頬にかかる。
あぁ〜…ほどいちゃったか。
諦めて、ため息をつく。
取り返すのは面倒そうだ。
「今度何かおいしい物頂戴ね」
「えっいいの?やったー♪」
お姉さん改め乱ちゃんはさっきまで俺の髪を留めていた紐を片手に喜んだ。
これ付けたら髪が綺麗になりそうって……乱ちゃんそれはさすがに無理だから。
というか、売るつもりでしょ、それ。
じゃあ、乱ちゃん付けないんじゃ…。
あんなの売れるのかな。
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