「やっやめてくれっ!!お願いだっ!もうやめてくれっ!頼むっ!」
「頼む?それが人に物を頼む言い方?」
「た、頼みます」
「えー…どうしよっかなー。そんな頼み方されたらもっと腐らしたくなる――」
「お、お願いしますっ!止めてくださいっ!」
男が叫んだ瞬間、ぴたっと男達の腕の腐食が止まった。
それに安堵した男達はずるずるとへたり込んでいった。
拘束していた腕と足を離しても、その場から動く気配はなかった。
うん。だいぶ懲りたみたいだな。
にしても、無駄な霊力使ったから余計に腹減った……
そうだ!こいつらに昼奢らせようかな。
「で、四番隊の有り難みは、しっかりくっきりと小さなツルツルの脳みそに刻み込んだ?」
最後の仕上げと言わんばかりに、爽やかな笑みを浮かべてそう問い掛けると、男達は首がもげそうなくらい勢いよく縦に振った。
「お前らみたいな馬鹿の手当てをしてあげている優しい場所はどこだ?」
「「「よ、四番隊です」」」
「誰のおかげでお前らは戦えてるんだっけ?」
「「「・・・よ、・・・」」」
「あぁ?小せぇよ声が。聞こえねぇ」
「「「四番隊のおかげですっっ!」」」
「俺さ、もっのすっご〜〜くお腹が空いていたわけ。餓死寸前てやつ?だから俺らの楽しい昼飯時を邪魔したことと、恐がらせたことをまとめて花太に謝れ」
さっきと同種の笑みを浮かべながら言ったけれど、そこは十一番隊のプライドとか何か意地があるのか、男達は首を横に振ろうとした。
が、腐食がさっきの倍のスピードで再開されるのを見て一気に顔色を変え、花太に土下座した。
「「「すっすみませんでしたっ!!」」」
「えっ、あっ、あの…」
「花太どうする?許す?」
いきなりのことに戸惑っている花太に、答えはわかっているけど問い掛けた。
花太は優しい子だからなぁ。
俺は花太の百分の一ほどの優しさもないと思う。
男達は逆だと思ったのか、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
その様子に悪戯心が芽生える。
「許さないんだったらもうちょっと…」
そう言うと、期待した通り男達の顔が真っ青になった。
それを見て花太は慌てて俺の台詞を遮った。
「じゃ、じゃあ、ゆっ許しますっ」
その時の男達の顔の輝き様といったら、きっと花太が菩薩にでも見えたに違いない。
やっと花太の素晴らしさが分かったか。
「良かったなぁ、お前ら」
「更紗さんっ。そっそんなことより治療を…」
「いいよ。俺が付けた傷だし俺がやる」
男達に駆け寄って治療をしようとした花太を止めて、治療してやった。
花太にも治療は出来るけどさすがに三人もいるし、自分がやっといてなんだけどこの手の傷は結構霊力いるから、三人も診たら花太が倒れちまう。
それにもともと自分で治療するつもりで傷負わしたし。
「「「ありがとうごさいますっ!!」」」
みるみる消えていく傷に男達は、俺が付けたなんて忘れているのか、俺まで菩薩かのように見てきた。
挙げ句の果てに感謝までされちゃったよ。
…単純だなこいつら。
「これに懲りたら、もう四番隊がどうとか言うなよ」
「「「はいっ!」」」
うっわぁ〜いい返事。
念を押すと、同時に立ち上がって同時に返事をした三人。
それが、かなりおかしくて、思わず笑ってしまった。
「ははっ。いい返事だな」
「「「////」」」
「あっ…」
またやってしまった…
気付いたときにはもう既に遅く三人の男は顔が真っ赤だった。
複雑な気分になったことは言うまでもないだろう。
むさ苦しい奴らにそんな目で見られても、なぁ。
ていうかこいつら、もう絶対に俺がしたこと忘れてるな。
……まあ飴と鞭だと思えばいっか。
自分の笑顔が飴になるなんて、正直考えたくないけれど。
「さてとっ、花太ぁ〜早く昼飯買お!俺腹減って死にそうなんだけど…」
「あっ、そうでした!」
騒ぎも片付いたことだし、列に並び直して、一刻も早く燃料補給をしよう。
そう思って列を探したが、何故だか存在していなかった。
あるのは人垣のみ。
もっと奥に列があるのかもしれないと思い、一歩踏み出せば――
ザザザッ
人垣が割れた。
もう一歩踏み出せば、さらに奥の人垣が割れた。
「どうしたんでしょう…?」
「さあ?並ぶ必要がなくなって良かったじゃん」
そんなこんなで大名よろしく人垣が作った道を悠々と歩いて、俺たちは昼飯を手に入れることが出来たのでした。
あ、勿論、俺と花太の分はきっちり奴らに奢らせましたから。
それにしても何であんなに避けられたんだ?
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