ん?
じっと息を潜めてアクマの動向を伺っていると、視界の端で何かが動いた気がした。
今、そこの瓦礫が動いたような…
まっまさか2体目のアクマっ!?
え、そんな悪夢あり!?
そういえば、1体しか目の前にいないから1体だけだと思ってたけど……もしかしたらこの辺に何体もいるんじゃ…っ!?
まずいまずいまずいって!
1体だけでも逃げれる自信がないってのに…っ!!
泣きそうになる自分に、まだ決まったわけじゃないと言い聞かせて視線を物音がした方へと向けた。
やはり瓦礫は動いていた。
その瓦礫に下にいる何かが外に出ようともがいているように見えた。
やっぱ何かいるーっ!!
一際大きく動いたとき中から出てきたのは…――
――なんだ、猫か〜。
・・・
「って、さっきのにゃんこおおおぉぉおお!?
…やば…っ!」
不運にも今度の叫びはかき消される事はなく、しっかりとアクマの耳(どこかわかんないけど)に届いてしまったらしい。
ふよふよと何処かに行こうとしていたアクマの動きが止まった。
そしてゆっくり振り返る。
そんじょそこらのホラー映画より怖い。
正直泣きそう。
ギャー!アクマに気付かれた!!
どうする!?どうする俺!?
続くっ!!
ってCMみたいに都合よくカードは出てきたらいいのに!!
マジでどうしたらいいか誰か教えてくれよ!!
俺はまだ瓦礫の影に隠れているから多分見つかんないだろうけど、猫の方はもうすっかり瓦礫の上にその姿を現していた。
なんとなく危険を察知しているのか、アクマに対して威嚇していた。
当然アクマが攻撃対象として選ぶのはその猫で…――
ああもうっ!!
こうなりゃやけっぱちだっ!!
どうせ最終的な運命は死ぬんだし!!
「こっちだ!アクマ!!」
俺は近くにあった瓦礫を掴みアクマめがけて投げた。
投げると同時に瓦礫の影から飛び出し、全速力で走り出す。
とりあえず足と体力には自信あるから、これでどうにかするしかない!
後ろを振り返るとアクマは思惑通り、ついてきていた。
見たところあいつどこも怪我してなかったから、俺がアクマを引き付けてる間に逃げてくれるかな?
そう想いながら無我夢中に廃墟と化した街を駆け巡った。
恐怖に足が止まりそうになる。
けれど、止まったら殺られる。
その思いが体を動かした。
建物の中を駆け抜け、曲がり角を曲がる。
わざと障害物が多い道を選んだりと、少しでもアクマが通れないように道を探し進む。
破片や銃撃などのせいで、体中傷だらけになった。
それでも足を止めることなく進んだ。
「はぁ…はぁ……っ」
あれからどれくらい走ったのかは分からないけれど、疲れてきて足がもつれそうになった時、
横の路地から何かが飛び出してきた。
まさかもう1体っ…!
絶望感が押し寄せる。
だが違った。
――先程の猫だった。
猫と目があった瞬間、あいつはこっちに駆けてきた。
後ろにアクマがいるにも関わらず。
まるでアクマが見えていないように。
「バカ!!逃げろ!!」
アクマの銃口が猫に向く。
俺は必死に抱き上げて、近くの路地へと転がり込んだ。
だが、それが失敗だった。
転がり込んだ路地は行き止まりだった。
抜けられそうな所はない。
後ろは壁、前にはアクマ。
冗談抜きで絶体絶命だ。
アクマの銃口は確実に俺たちを捉えている。
もう逃げる気力もない。
――あぁ、俺死ぬのか。
予感じゃなく、それが数秒先の未来だと思った。
最初から分かっていたことだったじゃないか。
助けが来るなんて、そんな物語みたいに都合のいいように現実は出来てないんだって。
俺はこんな意味の分からないようなところで1人で死ぬんだって。
あ、1人じゃないか。
腕の中の存在を思い出して、せめて少しでも弾丸がこいつにあたらないようにしっかりと抱きかかえ、自分の体でにゃんこの体を隠す。
空気が張り詰めた時、覚悟を決めて目をつぶった。
ドドドドドドドドッ
とうとうアクマの銃口が火を吹いた。
死を受け入れる恐怖の中で、これで両親のもとへ行ける、そんな安堵感があった。
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