アレンのためだと思って治療を断ったんだけれど、結局自分のエゴな気がして、気持ちが落ち込んでくる。
今のままだと、これからの任務に支障をきたしそうなので、気分転換をするためにも俺は病院の外を歩き回っていた。
『どうすんだよ』
(ん〜…少し気持ちが落ち着いたら戻るつもり)
病院を出てから、全くこの街の地理がわからないので、適当に(野性の勘を頼りに)歩くことにした。
方向音痴ではないので、迷子になるこてはないと思う。『一番最初、俺に会ったとき迷子になったのは何処のどいつだっけ?』
・・・
(何で黒燿が知ってんの?!)
『何でって見てたからに決まってんだろ』
(・・・)
驚く俺にあっけらかんと言う黒燿。思わず呆然としてしまった。
俺、必死だったのに…
『そんなことより気を付けろよ』
(あっ)
この街アクマだらけなんだっけ…?
飛んでいた思考を戻して辺りを警戒しながら進んだ。
ただの散歩なのに…
今歩いてるのは細い路地みたいなもので周りに誰も人はいなかった。
けど、物陰からいきなり出てこられたら危険だから慎重に―――
「!」
警戒していた視界に黒い影が移ったので反射で紅燐を抜き、黒い影に突き付けた。
だが、よく見るとそれは――
「黒い蝶…?」
『何でこんな所に…』
綺麗…
紅燐を降ろしてぼーっとそれを眺める。
ただの蝶じゃないというのはよくわかっているんだけど、デザインに凝った蝶はとても綺麗で、何でここにいるのかとかどうでもよくなってくる。
眺めていると蝶はひらひらと近寄ってきて、手を差し出すと指にとまった。
人懐っこい蝶だなー。
それを見て微笑んでいると、
《世羅。聞こえるか?》
聞き覚えのある重低音が聞こえてきた。
蝶 々 が し ゃ べ っ た
「ええぇぇ?!なっなっなんでっ?!」
驚きで身じろぐと蝶々の方も驚いたのか、ひらひらと逃げ飛んで、今度は肩に落ち着いた。
そのせいで重低音は耳元で聞こえるようになってしまった。
なんかくすぐったいな…。
蝶々は尚も声を発する。
《ちゃんと聞こえてるな?OKOK感度良好♪》
『まさか…!!』
・・・
通信系の器具特有の少し膜がかった声ではなくて限りなく肉声に近いその声にすごく思い当たるものがある。
どうやら黒燿も思い当たるものがあるらしい。
この声このノリもしかして……
「てぃティキ?」『クソガキ!』
半信半疑で名前を呼んでみれば、(っていうか黒燿クソガキは止めようよ…いくらかなり年上だからって)『うるせぇ』(・・・)
とっとりあえず半信半疑で名前を呼んでみれば、
《おっ名前ちゃんと覚えててくれたんだ♪》
嬉しそうな声が返ってきた。
――いや、あんなことされたら誰だって忘れられないって!!(故意に忘れる人もいるかもしんないけど!!)
さすがにスキンシップであっても忘れたい思い出堂々の一位であるあの時のことが、いろいろと脳内を駆け巡って、一瞬にして顔が真っ赤になる。
やっぱにっ日本人にはあのスキンシップは過激すぎる……
そんな記憶を追い出そうと首を振って、思い出さないために会話に専念することにした。
「こっこれ…」
なっ何で…
とりあえず何で蝶々からティキの声が聞こえてくるのか知りたい。
『そんなの早くきっちまえ!!』
(きれって言ったってきり方わかんないって)
ティキだけじゃなく黒燿とも話さなくちゃならなくて、パニックってる俺に対して、ティキは楽しそうな響きを滲ませながら言った。
《ん?プレゼントしただろ?世羅のイノセンスに》
思考がついていけず、間抜けな顔をしながら首を傾げる。
プレゼント…?イノセンス…?
『そうか!!紅燐かっ!!』
「あぁっ、紅燐?!」
黒燿のおかげでやっと意味がわかって慌てて紅燐を取り出してみる。
と、ティキがあの時紅燐に付けていった蝶々がいなくなっていた。
ミステリー……じゃなくて、じゃっじゃあこの蝶々はここにいた蝶々が抜け出したってこと…?
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