こっちどっちそっちあっち    [ 53/159 ]

「心臓が…ねぇ‥?」




すごく驚いた声がすぐ後ろから聞こえた。
うん。なんとな〜く状況が掴めてきた。
要するに、後ろからぐさっと殺られた訳か‥






・・・






あぁ…んっと‥ちょっとタイム

後ろの御方は今何とおっしゃられましたかな?
心臓がない…?と?
確かにそう言いましたよね?


心臓がない…心臓がない‥心臓が…――




「ええぇぇえぇっ!!!!心臓がないいぃぃ?!!!嘘っ!!なんでっ!!どこいった俺の心臓ー!!新手のイジメかっ?!」

『おい…』



体中ぺたぺたと触り、探す。ない…?

そうだっと思い振り返り後ろの人に詰め寄った。
口笛なんか吹いてる場合じゃないっつーの!!



『おい…』

「すいませんっ!!もう一回確かめてくれませんかっ!!」

「…はぁ?」

「だからさっきみたいにグチャっとやってパッと心臓があるかどうかを!!」

「お…おぅ」

『おい…』



若干引き気味だったけど了承してもらえた。
マジックみたいに手がズブズブと俺の中に入っていく。
痛くはないんだけど、なんか変な感じ。





ん?手がズブズブ…?
あれ?これ結構やばい状況なんじゃねぇの俺。




「やっぱねぇな」

「・・・」



まさかと思い、視線を上げて顔をそろりと覗き見る。







うわぉ、ティキ・ミック卿じゃん!!しかも黒!!

『おい…』


嘘っ!!何でティキ・ミック卿がここに?!
あぁでもさすがティキかっこいいなぁ〜なんかジェントルマンみたい!!!
普通にシルクハットが似合って 『おいコラテメェ聞いてんのか!!!』




(あっごめん。聞いてなかった)

『・・・』

(まぁまぁそう怒んなよ。で何?)

『右』

(右?何もないけど…)

『誰が右見ろって言った、馬鹿。心臓の話に決まってんだろ』

(…右?)



黒燿に言われた通りに右胸を触ると確かに鼓動を感じる。
ほっとしていると、目の前でひらひらと手を振られた。


「お〜い。大丈夫か?」



あっティキの存在忘れてた。


「えっと…俺、心臓右にあるみたい…です」

「あぁ、なるほどね」

「あの…お騒がせしマシタ」


お辞儀をして謝ると、不思議そうな顔をされた。
そういえば外国にはお辞儀ってなかったっけ。


「…俺が言うのもなんだけど、君俺に殺されそうになったの覚えてる?」

「・・・」

「痛っ!!」


普通に言われれば別に何とも思わないけど、なんつーか小さい子どもに諭すような感じで言われるのはな。
ご丁寧に、屈んでくれちゃってるし?
…無性にムカツクので足を蹴ってやった。ざまみろ。

ていうか、正直言って色々衝撃的な事が続いてて、忘れてたよ!
すっかり!




『で、いいのかよ。ソイツお前を殺そうとしてたんだぞ。何なら俺が一思いに…』

(物騒だから!)



そう、そこが問題なんだよなぁ。

てか心臓が右じゃなかったら今頃俺あの世だったんだよな…
我ながら悪運強いな…

ていうか、可笑しくないか?
俺今まで、健康診断とかで右にあるなんて言われたこと無いんですけど。
普通、言われるよな。
え、何で、今右にあんの!?


『あー…何ていうか…』

(?)

『俺のせいっていうか、おかげっていうか?』

(はあっ!?)

『いや、お前の体に入った時に、何か俺の力が強すぎたみたいで…』

(で?)

『で、適応しやすいように軽く中身いじった』





・・・はあっ!?

いや、え、いじったって、えぇっ?
え、じゃあ、何か体に違和感感じるなぁとは思ってたけど、それって異世界に来たことが原因じゃなくて、黒燿のせいって訳!?

いや、でも、そのおかげで殺されずに済んだ訳だし…

でも、中身いじったって…
ていうか、中身って言い方何かグロイ…。





「?」

なんて明後日の方向を見ていたら、不審がられた。
…いや、もう本当に、気にしないでください。



『で、どうすんだ?』

(話変えたよね、今)

『で、どうすんだ?』

(強引に変えるつもりだよね。まあ、ぶっちゃけティキとは戦いたくないんだよなぁ…
好きなキャラだし)

『じゃあどうすんだよ』




とりあえず…――










「あの〜…殺る気…ないですよね?」


あっティキがずっこけた。

縋るような思いでティキを見上げる。
だってここでティキが戦わないって言ってくれれば、丸く(?)納まるし!!


ティキは額に手をあてて苦笑いを浮かべている。

さすが美形!!絵になるねぇ!!


『心の中でおだてたって何にも変わんねぇぞ』

(バレた?)




ティキが一歩一歩近寄ってくるので、身構えて心持ち距離を取る。
笑い方が怪しい…




「そうきたか。そうだねぇ…」





何故だか顎を掴まれて持ち上げられた。
目の前にはドアップのティキの顔。
またまた何故だかもう一本の手は腰をしっかりホールドていて、そして耳元で囁かれたのはさっきとは違う重低音。









「こっちのやる気が出たって言ったらどうする?」


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