教団中に工事の音が響き渡っている。
敵襲なら頷けるが、味方の仕業となると修理する彼らの心境も微妙だろう。
俺とリナリーはアレンの看病係だ。
まだアレンは目覚めない。
「アレンなかなか起きないなぁ〜」
「そうね。世羅くんは寝なくていいの?」
「いや、寝ないとヤバい。…んだけどさっきの事件のせいで変に目が冴えちゃって」
「ごめんね…?兄さんのせいで…」
リナリーが本当に申し訳なさそうに言うからかなり焦った。
悪いのは、ぶっちゃけコムイさんだし!
リナリーはどちらかと言うと、被害者だし!
というか、ただ単に俺が眠くて不機嫌になってただけなんだよね!
「いや、全然大丈夫っ!!気にしてないからっ!!」
「…ありがとう」
少し気まずい雰囲気が漂う。
多分、気を遣っているのがバレたんだと思う。
どうしようかと思いあぐねていると、リナリーが急に口を開いた。
「そうだわ世羅くん、羽根!」
「うぇっ?!」
「羽根見して?」
「あぁ、うん。いいよ〜」
一瞬何のことかわからなかったが、白翼のことを言っているのだとわかった。
疲れていてもこれぐらいなら問題ないし、と白翼を発動する。
なるほど、女の子ってこういうの好きそうだもんね。
「うわぁ…ほんとに綺麗ね」
「ありがと」
「世羅くんに生えていると本物の天使みたい」
「そうか?」
俺だとなんかアヒルとかそういう類に見えそう…なんだけど…
黒燿ならちゃんと天使に見えそうだな!!
何か神々しいオーラ出てるし!!
…って、そういえば本当に神なんだっけ。
「あっ団服貸して?造り直さないといけないでしょ?」
「ありがと」
リナリーに団服を渡した。
作って貰ってばっかなのに、ボロボロにしちゃってごめんなさい。
リナリーは翼を出した時に空いた穴を眺めて、どうしようかと悩んでいる。
やっぱ団服のアレンジをよく手伝っていたりしているらしい。
「俺のだから適当でいいって」
「ダメよ。世羅くんのだからこそ真面目に考えなきゃ!!」
「?そ…う?」
よくわからないけど、まぁリナリーが一生懸命なので気にしないでおこう。
何だか楽しそうだし。
俺は白翼をしまって、すっかり忘れていたアレンの看病に戻ることにした。
ごめん、アレン忘れてて。
いや、忘れるつもりは無かったんだけど、ついうっかりしてて、ね?
温くなったタオルをもう一度濡らし、しぼってからアレンのおでこにかけてあげる。
その時アレンがいきなり飛び起きた。
「うわっ!!ビックリした〜…おはよアレン」
「えっアレンくん起きたの?」
「世羅、リナリー?」
リナリーも団服のことを中断してアレンを見る。
当のアレンはなんだかよくわからないといった表情を浮かべていた。
「ここは…?」
「科学班研究室。城内の修理でみんな出払っちゃってるけど。ほらあの音」
未だに工事の音は止むことはない。
お疲れ様です、本当に。
そうだ、と思いポケットを探る。
「これ、俺が持ってたみたい」
「あ、イノセンス!よかった壊れてなくて…でも何で世羅が…」
「ん〜覚えてないんだけど多分コムリンの時にアレンが持ってちゃ危ないからって盗ったんだと思う…アハハハ」
「盗ったって…」
いや、無意識って恐ろしいよね。
「ヘブラスカの所に持っていけば保護してくれるよ」
ヘブラスカってつくづく不思議だなぁなんて思いながらイノセンスを見つめる。
今度じっくり話してみたいな、なんて想っていたら、横でリナリーが「あっ」と呟いたのが聞こえた。
どうしたのかと横を向くと、かわいらしい笑顔のリナリーが迎えてくれた。
「おかえりなさい。アレンくん、世羅くん」
「ただいま!!&おかえりアレン!」
「ただいま…っ」
可愛いリナリーの、更に可愛い笑顔を見たアレンは顔が赤くなっていた。
そのことにリナリーは気付いていないようだ。
リナリーって鈍感なんだ〜!
そんなことを考えているといきなり騒がしくなった。
皆が様子を見にきたらしい。
「おー、アレン目が覚めたか」
「一体夜に何があったの世羅ちゃん。もー城内ボロボロよ」
「アレン、お前の部屋壊れてた」
「ええっ!?」
何でもない日常。
帰ってきたんだなって実感が湧いてきて嬉しくなった。
嬉しさが抑えきれなくなって、顔がほころんでいく。
あぁ、今の俺はきっと、締まりのないだらけきった顔をしているのだろう。
「あら、どうかしたの世羅ちゃん?」
「ううん。ただ帰ってきたんだなって」
「あンらまぁ…何このかわいい生き物っ!!」
ジェリーさんに抱きつかれた。
皆もさっき何故か固まっていたけど、顔を見合わせて笑っている。
あぁ、すごくほっとする。
そう思うと急にさっきの眠気が襲ってきた。
「おかえり世羅、アレン」
その言葉を聞きながら俺は眠りについた。
良かった。
ようやく、眠れる。
目を閉じる前に見えたのは驚いている皆の顔だった。
おやすみなさい。
(2006.12.19)
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