『うら……しょ‥』
『‥めくな…な』
うるさい…
何やら煩くて目が覚めた。
重たい目を開ける。
誰だよ…
寝呆けながらも声を探す。
うるさいと思った声は、どうやらユウの怒鳴り声と、通信機から漏れるコムイさんの声みたいだ。
いつもなら、朝起きたらすぐ黒燿が声をかけてくれるんだけれど、黒燿はまだ眠りから覚めていなかった。
「よいしょ…っと」
年寄じみた掛け声をかけながら起き上がり、壁伝いに歩く。
だんだんと声が鮮明に聞こえてくる方へ向かった。
どうやらユウは帰ろうとしている所らしい。
あ、多分あのシーンだ。
良かった。まだララに間に合う。
「帰る。金はそこに請求してくれ」
「へ?ダメダメ!あなた全治1ヵ月の患者!!」
「とっくに治った」
「そんなワケないでしょ!!」
その時、やっとユウがいる部屋に辿り着けた。
たった数メートルの距離だったのに、かなり時間がかかったし、すごく疲れた。
うわぁ〜…思ってた以上に体調悪いじゃん。
足が萎えてるのは、怪我よりも癒しの炎のせいかな?
直観的に、ユウにバレちゃいけないと思った。
ユウの所までは伝っていける壁はないから、ここからは自力だ。
たった1、2歩なのにしんどい。
「ユウのバーカ。俺置いてく気?」
そう言って背後からユウにのしかかると、
ユウが固まった。
ぉ医者さんやトマが驚いている。
無線からコムイさんが話かけてきた。
《世羅クン!!もう動いて大丈夫なのかい?》
「大丈夫じゃないけど、大丈夫〜」
足は大丈夫じゃないんデスケドネ。
「お前っ…!」
ユウの硬直がとけた。
ケガを気遣ってか、振り落とされはしなかった。
お医者さんもユウの言葉に便乗する。
「馬鹿か何で起きてやがる!!テメェは全治5ヵ月だろうがっ!!」
「そうですよ!あなた全治5ヵ月の重傷患者!!」
「だから大丈夫じゃないけど、大丈夫だってば」
まだそこら中痛むけど、動けないわけじゃない。
黒燿のおかげかもしれない。
自己治癒力も上がっているみたいだから。
怪我の方は大丈夫。
(足は怪我じゃないし)
「はぁ?」
「まぁまぁ気にしない気にしない!それよりまさか俺を置いて行こうとはしてないよな?」
「…お前はここで寝てろ」
「イヤ!!だって…そろそろララが……」
「はぁ…」
せっかくここまで辿り着いたのに、部屋まで戻らされそうになって、必死でお願いした。
そしたらユウがため息をついた後、足が浮いた。
「うぇっ!?あっ…!」
「暴れんな!落とすぞ!!」
なんとっ!!ユウにおんぶされていますっ!!
一瞬不思議な浮遊感があったと思ったら、ユウにおぶわれていた。
とっさにユウの首に腕を回す。
いつのまにかトマは、荷物を全部持っていてくれていた。
通信機の向こうから茶化すようなコムイさんの声が聞こえる。
《何ナニ?神田クンどういう風の吹き回し?》
「イタ電なら切るぞ。コラ」
《ギャーちょっとリーバーくん聞いた!?今の辛辣な言葉!!世羅クンも聞いた!?》
思わず吹き出してしまった。
ララのことで沈んでいた気分が少し浮上する。
多分コムイさんは分かっててやってくれているんだろうなぁ。
その優しさがすごく嬉しい。
《違いますぅー。次の任務の…――》
横を見ると一組の親子がいた。
子どもは母親の腕の中ですやすやと眠っている。
ララの子守歌。
そうこうしている間にララの所についた。
見ると、階段でアレンは膝を抱えて座っていた。
俺達が来たことに気付いてないみたいだ。
「何寝てんだ。しっかり見張ってろ」
「!あれ…?全治1ヵ月の人がなんでこんな所にいるんですか?」
「治った」
「ウソでしょ…」
「うるせェ」
ユウは俺を近くに下ろしてくれた。
アレンは完全に俺の存在に気付いていない。
「ユウありがと」
「あれ?おかしいなぁ…世羅の声が聞こえる」
「正真正銘、本物、生物の世羅くんですよ〜」
茶化すように返事すれば、勢いよくアレンが顔をあげた。
微妙に怒ってる…?
「何で全治5ヵ月の世羅がここにいるんですかっ!!」
「ごめんって!…だけど俺もララの最期‥見届けたいから…」
「…そうですか」
でも、ララの名前を出すとまたアレンは顔を伏せた。
かなり気まずい。
だから俺はララの所へ行くことにした。
一般人もいないので白翼を出し、ふらふらと辿り着く。
ララはいた。
最初で最後に見たララとは違った、人形らしい姿で。
それでも変わらない綺麗な旋律に包まれる。
目を閉じてララの歌声を聞いていたら…――
――…歌が終わった。
動かないララの体。
アレンがやってきて、ララの傍にしゃがみこんだ。
もう動かないはずなのに
「ありがとう。壊れるまで歌わせてくれて。これで約束が守れたわ」
俺にも、ララが一瞬元の状態になってそう言ったのが聞こえた。
ララ…
アレンが涙する。
見ないふりをした。
「神田…それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」
俺も涙が頬を伝った。
ばれないように仰いだ空は、星が綺麗だった。
――夢だったララの歌は、とても哀しい旋律だった。
(2006.12.10)
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