lullaby & Lala・bye    [ 42/159 ]

『うら……しょ‥』

『‥めくな…な』







うるさい…



何やら煩くて目が覚めた。
重たい目を開ける。

誰だよ…

寝呆けながらも声を探す。
うるさいと思った声は、どうやらユウの怒鳴り声と、通信機から漏れるコムイさんの声みたいだ。


いつもなら、朝起きたらすぐ黒燿が声をかけてくれるんだけれど、黒燿はまだ眠りから覚めていなかった。


「よいしょ…っと」


年寄じみた掛け声をかけながら起き上がり、壁伝いに歩く。
だんだんと声が鮮明に聞こえてくる方へ向かった。
どうやらユウは帰ろうとしている所らしい。

あ、多分あのシーンだ。
良かった。まだララに間に合う。



「帰る。金はそこに請求してくれ」

「へ?ダメダメ!あなた全治1ヵ月の患者!!」

「とっくに治った」

「そんなワケないでしょ!!」


その時、やっとユウがいる部屋に辿り着けた。
たった数メートルの距離だったのに、かなり時間がかかったし、すごく疲れた。

うわぁ〜…思ってた以上に体調悪いじゃん。

足が萎えてるのは、怪我よりも癒しの炎のせいかな?

直観的に、ユウにバレちゃいけないと思った。

ユウの所までは伝っていける壁はないから、ここからは自力だ。
たった1、2歩なのにしんどい。




「ユウのバーカ。俺置いてく気?」


そう言って背後からユウにのしかかると、

ユウが固まった。

ぉ医者さんやトマが驚いている。
無線からコムイさんが話かけてきた。



《世羅クン!!もう動いて大丈夫なのかい?》

「大丈夫じゃないけど、大丈夫〜」



足は大丈夫じゃないんデスケドネ。




「お前っ…!」


ユウの硬直がとけた。
ケガを気遣ってか、振り落とされはしなかった。
お医者さんもユウの言葉に便乗する。


「馬鹿か何で起きてやがる!!テメェは全治5ヵ月だろうがっ!!」

「そうですよ!あなた全治5ヵ月の重傷患者!!」

「だから大丈夫じゃないけど、大丈夫だってば」



まだそこら中痛むけど、動けないわけじゃない。
黒燿のおかげかもしれない。
自己治癒力も上がっているみたいだから。
怪我の方は大丈夫。
(足は怪我じゃないし)



「はぁ?」

「まぁまぁ気にしない気にしない!それよりまさか俺を置いて行こうとはしてないよな?」

「…お前はここで寝てろ」

「イヤ!!だって…そろそろララが……」

「はぁ…」


せっかくここまで辿り着いたのに、部屋まで戻らされそうになって、必死でお願いした。
そしたらユウがため息をついた後、足が浮いた。



「うぇっ!?あっ…!」

「暴れんな!落とすぞ!!」



なんとっ!!ユウにおんぶされていますっ!!


一瞬不思議な浮遊感があったと思ったら、ユウにおぶわれていた。
とっさにユウの首に腕を回す。
いつのまにかトマは、荷物を全部持っていてくれていた。


通信機の向こうから茶化すようなコムイさんの声が聞こえる。


《何ナニ?神田クンどういう風の吹き回し?》

「イタ電なら切るぞ。コラ」

《ギャーちょっとリーバーくん聞いた!?今の辛辣な言葉!!世羅クンも聞いた!?》


思わず吹き出してしまった。
ララのことで沈んでいた気分が少し浮上する。

多分コムイさんは分かっててやってくれているんだろうなぁ。

その優しさがすごく嬉しい。



《違いますぅー。次の任務の…――》




横を見ると一組の親子がいた。
子どもは母親の腕の中ですやすやと眠っている。

ララの子守歌。






そうこうしている間にララの所についた。
見ると、階段でアレンは膝を抱えて座っていた。
俺達が来たことに気付いてないみたいだ。



「何寝てんだ。しっかり見張ってろ」

「!あれ…?全治1ヵ月の人がなんでこんな所にいるんですか?」

「治った」

「ウソでしょ…」

「うるせェ」



ユウは俺を近くに下ろしてくれた。
アレンは完全に俺の存在に気付いていない。



「ユウありがと」

「あれ?おかしいなぁ…世羅の声が聞こえる」

「正真正銘、本物、生物の世羅くんですよ〜」


茶化すように返事すれば、勢いよくアレンが顔をあげた。

微妙に怒ってる…?



「何で全治5ヵ月の世羅がここにいるんですかっ!!」

「ごめんって!…だけど俺もララの最期‥見届けたいから…」

「…そうですか」



でも、ララの名前を出すとまたアレンは顔を伏せた。
かなり気まずい。
だから俺はララの所へ行くことにした。




一般人もいないので白翼を出し、ふらふらと辿り着く。

ララはいた。

最初で最後に見たララとは違った、人形らしい姿で。

それでも変わらない綺麗な旋律に包まれる。

目を閉じてララの歌声を聞いていたら…――




――…歌が終わった。


動かないララの体。

アレンがやってきて、ララの傍にしゃがみこんだ。

もう動かないはずなのに



「ありがとう。壊れるまで歌わせてくれて。これで約束が守れたわ」



俺にも、ララが一瞬元の状態になってそう言ったのが聞こえた。

ララ…

アレンが涙する。
見ないふりをした。



「神田…それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」



俺も涙が頬を伝った。
ばれないように仰いだ空は、星が綺麗だった。






――夢だったララの歌は、とても哀しい旋律だった。



(2006.12.10)


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