グゾルとララと人形と、イノセンス    [ 41/159 ]

目が覚めたら全身が痛かった。
痛すぎて逆に感覚が麻痺しているのが救いだ。

何でこんなに痛いんだっけ?


…あ、そうか。
ユウを庇ってアクマにやられたんだった。

俺が倒れたとき、夢かもしれないけどユウに名前を呼んでもらえた気がした。

嬉しかったな〜。

存在を認められたって感じがするから。


そういえば、今どんな状況なんだろ?

話し声が聞こえる方を向いて、ユウとアレンの姿を探す。



いた。
ちょうどユウがアレンを殴っている所だった。
この状況で言うのもなんだけど、ユウは無事みたいで安心した。
ちゃんと守れたことが嬉しい。


とりあえず…ふたりのところに行かなきゃ…

立てるような状態ではないから、そんな自分の姿は変だろうな、なんて思いながら這いつくばって進む。

あまり遠くなかったのでなんとか2人の所に辿り着いた。
2人はまだ俺に気付いていなかった。
ララもグゾルも俺に気付いてない。

そういえば、初めてララとグゾルと会ったことになるんだ…。

人形だって分からないくらい、ララは綺麗だった。

一途に想っている人形は何よりも綺麗だったから、余計に、この物語の結末を思うと涙が出そうになった。


何かしたい…!



ユウの袖をひっぱった。
俺の意志も伝えたかったから。

驚きに見開かれた目と目が合った。



「ユウっ俺、から…も、お願い……ララ…のっ、好きにさせ、てあげて?…ね?」



上手く喋れないのがすごくもどかしかったが、なんとか言えた。
そしたら一瞬、ユウが笑った気がした。



「グゾル…」


だが、それを確かめる間もなくグゾルとララがアクマに連れ去られてしまった。

その一瞬の光景が、ララの表情が焼き付いて、動けなかった。
ララの心臓、イノセンスが取られた。
用無しと言わんばかりに捨てられた2人の体。
グゾルはララを呼び続けているがララは動かない。

漫画通りの光景。
漫画通りの悲しい結末。



この体が動いたら…っ!!



がむしゃらに這いつくばって、グゾルとララのもとへ行こうとしたら、ユウに止められた。


「じっとしてろ。アイツがどうにかする」



ユウにつられて、アレンを見ると左手が奇妙なことになっていた。
禍々しい空気が辺りを渦巻く。



「ウォ…ウォーカー殿の対アクマ武器が…」

「造り変えるつもりだ。寄生型の適合者は感情で武器を操る。宿主の怒りにイノセンスが反応してやがる」



アレンが飛び上がる。
横でユウが叫んだが、アレンの左手はもうちゃんと造形が終わっていた。
アクマにむかって連射する。



グゾルとララは…


無事だ。
上手いこと避けて撃たれたみたいだ。


その間にも攻防は続き、砂の中からアレンの対アクマ武器を形どったアクマの手が出てくる。
それを避けたアレンの目の前にアクマは迫り、アレンを砂の中に取り込んでしまった。
アクマは嬉しそうに笑う。



「ケケケ捕まえた!もうダメだもうダメだ、お前!!何回刺したら死ぬかな〜?」



そう言って自分のお腹を刺し始めるアクマ。
はたから見るとかなり自虐的な行動だと思う。
高笑いしながらやっているので尚更た。



そんなこと思っている間にアレンはアクマのお腹から出てきて、アクマの砂の皮膚を切る。
そしてまた撃ち始めた。
アクマは写し取ったアレンの手でそれを受け止めたが、それも長くは持たず手はボロボロになっていく。



「く、くそっ。何でだ!同じ奴の手なのに…なに負けそうなんだよぉ…!!」


漫画で読んだユウの言葉を思い出した。


『対アクマ武器を真に扱えるのは適合者だけ。シンクロすればする程、エクソシストは強くなれる。』



だからアクマには無理なんだ。

だって、あれはアレンのものだから。


と、その時アレンが血を吐いた。

リバウンド…っ!!

成長した武器に体がついていけてなかったのだ。
そこをアクマが嬉々として狙ったが、ユウがそれを止めた。


「!?神田!」

「この根性無しが…こんな土壇場でヘバってんじゃねェよ!!あのふたりを守るとかほざいたのはテメェだろ!!!」



俺はせっかくの二人の友好シーンを邪魔しては悪いと思い、グゾルとララのもとへ向かった。


確かこの後デカイのが放たれるはず。
少しでも二人が被害を受けないように…――



「お前みたいな甘いやり方は大嫌いだが…口にしたことを守らない奴はもっと嫌いだ!」

「は…は。どっちにしろ…嫌いなんじゃないですか…」



白翼を出し、ふらふら低空飛行をして2人のもとに着いた。



「別にヘバってなんかいませんよ。ちょっと休憩しただけです」

「……いちいちムカつく奴だ」



2人の会話からもうそろそろだと判断し、白翼を巨大化してグゾルとララを囲った。

準備は調った。
2人の方を向くと、ユウはアクマの手を切り、アレンはイノセンスを発動していたところだった。

そろそろだ…




「「消し飛べ!!」」



屋根を突き破って、吹き飛ばされたアクマ。
するどい閃光と共に、アクマは消滅した。



「…っ!」


守っといて良かった。
なかなかの衝撃はきたし、瓦礫の破片も落ちてきた。
でも、白翼のおかげで2人に被害は無かった。
安堵の溜め息が漏れる。


静かになった所で白翼をしまい、倒れた。
すごく疲れた。



ララが元に戻りますように…。


叶う見込みが全くないことは分かっているけど、そう願った。


そのまま俺は眠りについた――


*prev / next#

目次へ
しおりを挟む



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -