「あの、ちょっとひとつわかんないことがあるんですけど…」
「それより今は汽車だ!!」
船から降りてすぐ、俺たちは汽車に乗るべく走っていた。
何処かの屋根を。
常人じゃ追いていかれそうなスピードだったが、走ると分かった時に密かに発動しておいたイノセンスの力のおかげで、3人について行くことが出来た。
ユウやアレンだけでなく、トマさんもこのスピードについてこれてるって、本当にこの世界の人間はどれだけ凄いんだ…
運動神経には自信のあった俺だが、ここの人達に適いそうもない。
鍛え方が違うのかな?
俺は黒燿の能力に改めて感謝した。
「お急ぎください。汽車がまいりました」
「でええっ!?これに乗るんですか!」
真下を目的の汽車が通る。
そう。俺たちはこの動いている汽車に乗るために走っていたのだ。
乗務員さんも駆け込み乗車は注意するけど、まさか飛び乗り乗車で来るとは思わないんだろうな〜。
そんなことを思いながら、屋根から飛び降りる。
身体能力が上がっているおかげで、難なく汽車の上に着陸することが出来た。
「飛び乗り乗車…」
「いつものことでございます」
横でアレンが死にそうな形相で呟く。
そして律儀に返すトマさん。
そんなことよりも…――
「やばい…」
小さく呟いたつもりだったのだが、皆に聞こえていたようだ。
3人の視線が集まった。
「これ、かなり楽しいかもしんないっ!!!もう一回やろ!!」
たぶん今新しいおもちゃを見つけた子どものような顔をしているだろう。
だって俺、見た目に合わないとか良く言われるけど、ジェットコースターとか絶叫系が大大大大大好きなんだよ!!
すっごい楽しかった!この疾走感と爽快感がたまんない!
はしゃぐ俺に何故かみんな一瞬固まった。
しかも顔を真っ赤にして。
飛び乗った時に打ったのだろうか?
というか走ったし、そのせいかな。
色白いとすぐ赤くなるって聞くし。
「…はぁ」
そして、ユウがため息をついた。
後の2人もため息はついていないものの、苦笑いのような呆れてるような表情を浮かべて俺を見ていた。
えっちょっと何で?
「馬鹿なこと言ってねぇで、さっさと中入るぞ!」
一言で切り捨てられてた!!
本気で言ってたのに……!!
凹む俺を無視して、みんなは中に入っていってしまった。
『もう一回は無理だろ』
(もう一回屋根の乗ってちょっと先まで走りたいだけだってば)
『乗れたんだから、さっさと乗れよ』
ブルータスお前もか…!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「困りますお客様!こちらは上級車両でございまして、一般のお客様は二等車両の方に…てゆうかそんな所から…」
上から中に入ると乗務員さんが急いで止めに来ていた。
非常識な相手にも、マニュアル通りに話そうとしている乗務員さんを尊敬した。
素晴らしきプロ精神。
でも最後はやっぱり本音が零れてしまったようだ。
そりゃそうだよな〜。
マニュアルに『屋根から乗車されたお客様への対処の仕方』なんて載ってるわけないよな。
同情の瞳で見守っていたが、つつがなく話は進んだようだ。
黒の教団のネームブランドのおかげだった。
マイナーそうで、以外とこういう人たちの間じゃメジャーなのかな?
漫画でも不思議だったけど、どこまで通用するんだろうか。
公共機関は全部大丈夫なのかな?
「うわぁ〜すごっ!」
個室の電車なんて初めてなので、感動しながら俺は車室に入り窓際に座った。
やっぱりトマさんも入ればいいのに…。
さっき、トマさんも中に入らないかと誘ったけど、断られてしまったのだ。
後から入ってきたユウは俺の隣に座り、最後に入ってきたアレンは
……何故か黒いオーラを出していた。
そのまま俺の前に座る。
なっ何で?!
黒アレンが降臨してんの?!
とっとりあえず、何か話題を…っ!
「アッ、アレン…えっと…えっとさ……
あっ!さっき何かわかんないことがあるって言ってなかったっけ!!」
「あぁ。その質問なんですけど…―――」
必死で何か気を反らせそうな話題を、考えに考え抜いて振れば、あっさりとアレンは普通に戻ってくれた。
アレンが白に戻った!!
じゃあ、俺も資料読もっと。
2人の話を聞いているふりをしながら、資料に目を通した。
あれ?
英語で書かれているのに何故かスラスラ読める。
そりゃあ、ある程度はもともと読めるんだけど、分からないはずの単語の意味もわかるし、曖昧に掴んでいた文章がはっきりと読める。
俺、もしかして天才っ!?
有り得ないが、そんな風に喜べば、黒燿につっこまれてしまった。
『バーカ、俺のおかげだっつーの。お前が普通に英語喋れてるのも俺様のおかげ』
あっなんだ。やっぱりそうだったのか。
ちょっと期待してたのに…
(それにしても、実は黒燿って意外とすごかったんだな!!)
『実は、と意外とは余計だ』
あははは、すねられちゃった…
いや、でもイノセンスを間違って食べちゃうくらいだからバカなのかと思ってた。
『…能力切るぞ』
(ごめんなさい)
それを人質に取られると、もう俺は何も言えなかった。
「!」
「これは…」
どうも黒燿と話していると周りの会話に気が回らなくなる。
どうやら2人はマテールの亡霊の正体を読んだところみたいだ。
中の会話が聞こえたのだろう、ドアの向こうからトマさんが語り始めた。
「そうでございます。トマも今回の調査の一員でしたのでこの目で見ております」
「マテールの亡霊の正体は…―――」
告げられた言葉は、悲しい物語の幕開けだった。
(2014.12.02 修正)
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