所変わってここは地下水路。
任務に行くというのは分かっているんだけど、実感がわかないため、緊張感もわいてこない。
そんなことよりも、俺は、初めて袖を通した団服にドキドキしていた。
中学校と高校の入学式を思い出すこの高揚感。
懐かしいなあ!
制服ってやっぱり何か新しい自分になったみたいだよな。
ウキウキしながら、腕を伸ばしたり曲げたりと着心地を確かめてみる。
さすが戦闘用。
見た目よりずっと軽いし、動きやすい。
実を言うと、漫画を読んだときに、あの格好動きづらくないのかななんて思ったんだけど、いらぬ心配だったようだ。
やっぱり特殊な繊維とか使っているんだろうか。
「世羅、似合いますよ」
「そうかな?ありがとう。アレンも似合ってるよ」
俺の団服のデザインは、上下分かれているタイプだった。
確か、アジア支部のバクもこんな感じなデザインじゃなかったかな?
上はリナリーの団服の丈を短くした感じで、下はズボンにブーツ。
そこらへんはあまりアレン達とは変わり無いが、違うのはコートだ。
いやもう上下別れてる時点で、コートじゃないか。
何だろう。腰布みたいな?
その腰布は、ベルトから布が垂れているといった感じなのだが、それは左側にだけで、右側にはなかった。
変わったデザインだなーと、最初は何の為なのか分からなかったが、右側に吊されているホルスターを見たら合点がいった。
なるほど!
紅燐を取り出しやすくするためか!
当たり前のようにそう納得したのだが、疑問の声が自分の内側から沸き上がってきた。
『紅燐?』
(言ってなかったっけ?新しい方のイノセンスの名前なんだけど)
『あぁ。そういえば、銃型のやつだったな』
(そうそう。だからサッと出してバーンと撃てるってわけ)
『…もっとまともに喋れよ』
その時、アレンと会話が終わったのかコムイさんがこっちを見た。
僕の姿を見て、満足そうに笑う。
「世羅クンのはぴったりみたいだね」
「あっ、はい」
過不足なく、本当にぴったりに作ってあって感動した。
これがオーダーメイドの着心地か〜。
既製品したことない現代っ子の俺には新鮮だった。
…あれ?でも、いつサイズ測ったんだろ?
一瞬そんな疑問が頭をよぎったが、満足気だったコムイさんの表情が不満気なものに変わったので、そちらに意識が向けられた。
「でも世羅くんのイノセンスは炎を出せるっていうことしか知らなかったから、ていうか神田くんが詳しいことを何にも教えてくれなかったしー、何も工夫出来なかったんだよー。寄生型だから、どこか不具合が生じそうなところがあったら言って?」
拗ねた口調でさりげなくユウのことを訴えたコムイさんに、苦笑を返すしかなかった。
ユウに出会った時に黒炎のことを聞かれて、黒炎と白翼のことは教えたんだけど…
言ってなかったんだ。
言うのが面倒だったのか、俺の事情とか考えてくれたのかな。
それだったら、嬉しいな。
不具合か…。
黒炎は、勿論問題ないし、閃爪も手が出ているから問題ない、となるとやっぱり白翼だよね…。
アレをこの状態で出したら、確実に服破れちゃうじゃん!
すっかり忘れていた。
いやでも、団服作るって予告もなくいきなり渡されたから仕方がないよね?
今から言ってももう遅いので、この任務から帰ってこれたら翼を出し入れしても服が破けないように改造して貰おう。
作った人には申し訳ないんだけども。
「あぁ…、じゃあ帰って来た時にでも改良してもらえます?」
「了解。その時はちゃんとイノセンスのこととか教えてね♪」
明るく言われたけれど、その裏に少し違う色が混ざっているのを感じた。
…思えば、俺って素性も事情も不明のかなり怪しい人物じゃん!
いや、でも言えそうなことないし…
肯定は出来ないので、曖昧に笑みを返すだけにしておいた。
船に乗り込みながらも、どうしようかと考え込む。
異世界から来たなんて、おいそれと人に言えるようなものでめないし、もちろん簡単に信じてもらえるはずもないだろう。
というか言う気もない。
むしろ怪しい人物として危険視される可能性もあるのだ。
だからって代わりにコムイさんが多分一番知りたがっている、2つのイノセンスの謎も話せないし…
黒燿は普通のイノセンスとは違うのだ。
(…どこまで、というか何を教えたらいいと思う?)
『能力のことだけにしておけ。俺のことは喋んな』
(何で?)
『俺のこと言ってみろ、ぜってーアイツら俺のこと研究し出すぞ?!俺は研究材料になるなんて御免だ!!』
声だけなのに、黒燿が本気で嫌がっているのがわかった。
なんか動物病院に連れていかれそうなペットみたい。
そういえば、本来の姿は獣だって言ってたし、あながち間違ってもいないのかもしれない。
普通の動物も神獣も病院嫌いな点においては同じなんだな。
新しい発見だった。
『人のことを動物扱いしてんじゃねえよ』
(ごめん。ごめん)
なかなか不便だこの状態。
「いいですか、皆様方?」
「あっ、はい!」
舟を漕いでくれるらしい探索部隊の人の呼び掛けに、慌てて答えて思考を現実に戻した。
出発しようかという時、またコムイさんに呼び止められた。
「あっそうそうコレ渡すの忘れてた」
そう言って渡されたのは、普通のとはちょっとデザインが違うゴーレム。
「世羅クンのだよ。昨日徹夜して作ったんだから〜」
「ありがとうございますっ!」
さすが本部の科学班!
いや、でも何か仕事増やしちゃって申し訳ないなあ…
ていうかゴーレムって徹夜したら作れるもんなんだ、と感心しながらもお礼を言った。
俺のゴーレムだってさ!
そしたら、ゴーレムの話に釣られたのか、アレンの袖からティムキャンピィーが出てきた。
うわ〜ティムキャンピィーだっ!
こんなに近くで見るのは初めてだから興奮する。
「ティムキャンピィー!どこ行ってたんだ、お前」
「ティムキャンピーには映像記録機能があってね。キミの過去を少し見せてもらったよ」
過去という言葉に反応するアレンが心配になって見つめると、大丈夫だというように笑い返してくれた。
俺が知ってるって知らないからこその笑顔だよな…。
そんな強さに胸が締め付けられる思いがしたが、気付かれないように笑い返した。
知らない振りを貫き通そう。
まだそれは俺が知ってはいけないことだと思うから。
「行ってらっしゃい」
コムイさんが見送ってくれる。
もう一度アレンと顔を見合わせて、次は素直に微笑みあった。
「「行ってきます」」
「おかえり」と言って貰えるように、
「ただいま」と笑顔で返せるように…―――
さあ、古代都市 マテールへ!
(2014.12.02 修正)
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