神田と蕎麦    [ 34/159 ]

あの後、騒動が落ち着いたのを確認して、ジェリーさんのところへ戻ると、ちょうど蕎麦が出来上がっていた。
俺の行動を見て、茹でるのを調整してくれていたらしい。
さすがはジェリーさん。

さて、どこで食べようかと悩んでいると、



「あ、いたいた!」



リーバーさんが現れた。
重たそうな本をたくさん持っているが、慣れた感じだ。
その姿はどこかで見たことがあった。
心当たりは漫画しかない。


あの騒動の後ってことはまさか!



「神田!アレン!それと世羅!10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ」


おお!アレンの初任務だ!と感動して見ていたら、ユウとアレンだけではなく俺の名前も呼ばれたことに驚く。

も、もしかして、俺もマテール行き…!?
てことは、ララの歌が聞けるの!?

期待に胸を踊らせる。
ジェリーさんの料理に続き、ララの歌もまた夢だったのだ。


『来て早々任務だなんて、ほんと人手不足だな、ここ』

(ずっと任務ないよりかは、いいじゃん)

『バーカ。そんだけ平和じゃねえってことだろうが』

(うっ…確かに…)


正論を言われてしまうと、返す言葉がない。
黒燿が言うことは最もだけれども、でも俺はマテールに行けることが嬉しかった。

10分後に司令室っと。
10分ってきついな…急いでごはん食べないとっ!


そう思ったところで、まだ席を探している段階だったことを思い出す。


どこに座ろう?


ご飯の時間なので、大体の席が埋まっていた。
空いているところといったら、集団と集団の間ぐらいで座る勇気が要りそうだ。
ぐるっと見渡すと、一箇所だけやけに空いている場所があった。
その中心には不機嫌オーラ垂れ流しのユウがいた。
確かに、さっきの今だと座りにくい上に、あんなに不機嫌そうだったら余計に近付きにくいよな。

かく言う俺も少し気後れしている。

だって、あんだけ偉そうなこと言っちゃったし…
ユウは一緒に食べてくれるかな…?


もう一人の知り合いであるアレンの姿を探すと、机の上いっぱいに並んでいる料理と戦っていた。

…改めて見ると凄い量。

もはやあの量は、バイキングのノリだ。
ちなみにもう3分の1ほど食べ終わっているようだった。

俺と受け取るタイミングそんなに変わらなかったよな…?
2、3分しか経ってないと思うんだけれど…

ごめんアレン。
一緒に食べたくないや…。
食欲なくなりそう。


『…寄生型だとしてもあれは異常だろ』

(だよね!!?俺あんな風にはならないよね!!?)

『安心しろ。あの胃袋は化け物だ』

(良かったー!!)


今、遠目に見ているだけでも、少しお腹がいっぱいになってきたぐらいだ。
目の前で見たら、尚更だろう。


ということでやっぱり――



「ユウ、一緒にごはん食べていい?」












相模世羅、只今お蕎麦を堪能しております。



「ん〜、おいしい!外国でちゃんとした日本食が食べれるなんて、感動もの!」


危惧していたとおりにはならず、普通にユウは同席を許してくれた。
こっそり蕎麦効果かなと思っている。


それにしても、予想以上にジェリーさんの料理は美味しかった。

蕎麦で判断するのもどうかと思うけど、手打ちっぽいんだよな、これ。
いつ打ったんだろう…

麺のちょうどいい細さといい、コシの加減といい、ユウがいつも食べてる理由がわかった気がする。





――あっ、ユウ…



蕎麦食べるのに夢中で、すっかりユウの存在を忘れていた。


食べる手を止めて、そっと目の前に座っているユウの方を向くと、目が合った。
何故かじっと見られている。


も、もしかしてユウ…









さっきのことめちゃくちゃ怒ってる!?
とっとりあえず聞いてみよ…っ!



「えっと、ユウさん?どういたしマシタカ?」


焦りすぎて思わず片言になってしまった。
何をやっているんだ俺は。



「…別に」



緊張しながら返事を待っていたが、返ってきたのはそっけない言葉だけだった。


別にって…じゃあなんでじっと見てるんだよー…




やっぱりまだ知り合ったばかりだから遠慮しているんだろうかと複雑に思ったが、時間もないので今は食事に専念することにした。
急いで食べないといけないのが、勿体無いくらい美味しいなあ。

また口が緩む。





「ほんとにヘラヘラしながら食ってやがるんだな」





食べ終わり、満腹で幸せな気分に浸っていると横でユウが何か呟いた気がしたが、上手く聞き取れなかった。



「えっ?何か言った?」

「…別に。食い終わったなら行くぞ」



ユウはまたもや素っ気なくて、しかも俺の返事も聞かずスタスタと歩きだしてしまった。


また別にかよ!そんな女優さんいたよ!?
一体なんなんだよ…。
なんかもう考えてもわからなさそうだから、気にしないでおこう…。



俺はユウの後をついて司令室に向かって歩きだした。
アレンの方を振り返って見ると、人集りが出来てしまっていた。


アレンの食べっぷりは見せ物の領域なんだ…。




一緒に食べなくてよかった。

アレンには悪いけど、そう思った。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆







「さて、時間が無いので粗筋を聞いたらすぐ出発して。詳しい内容は今渡す資料を行きながら読むように」


司令室に着いてすぐ、俺たち3人はコムイさんから説明をうけていた。
漫画であらかじめ知っている内容なので、ついつい思考が別のところに飛んでいってしまう。
俺は、先程みた光景を思い出して満足していた。

あの起こし方が見れたのだ。
リナリー結婚のアレだ。
予想以上の乱れっぷりだった。
リナリー、本当に愛されてるなー。

それにしても、あれだけ取り乱した後によく普通に出来るよな。
今説明している姿は、しっかりした室長って感じだし、ただのイケメンだ。

でもあの乱れようも嘘じゃなかったし、本当にリナリーが結婚する時になったら、相手の人を殺しちゃいだよな。
殺すか、破談に追い込むか。




・・・




あ、うん。
コムイさんなら遣りかねそうなので、それ以上想像するのは止めておこう。





「3人で行ってもらうよ」


ただならぬ空気に意識をもとに戻した。
大体説明は終わってしまったらしい。
コムイさん、ごめんなさい。

その、ただならぬ空気は、両隣から漂ってきていた。
そう。
俺は今、隣同士で座りたくないと言った、アレンとユウに挟まれる形で座らされているのだ。


うわ…2人ともすっごい顔になってる。
睨み合うのは別に構わないんだけど…俺を挟んでするのは止めてくれっ!

険悪な2人に挟まれて、俺は居心地の悪さに身を縮めた。




「え、何ナニ?もう仲悪くなったのキミら?」


何が楽しいのか、コムイさんは嬉しそうに聞いてくる。
挟まれてる俺の身にもなってよ!楽しくないよ!



やっていけるかな…俺…



リナリーに助けを求めてみたが、苦笑いを返されだけで終わってしまった。


わかっているはずの先行きが非常に不安になった、相模世羅16歳であった。


(2014.11.28 修正)



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