他にも色々と話をしていると、しばらくして無事に食堂に辿り着くことが出来た。
ジェリーさんは何処だと目を輝かせながら探すと、ちょうどジェリーさんはアレンと話している最中だった。
これって確か、アレンの有り得無さ過ぎる大食い発覚シーンだったよな。
アレンの後に注文してもすぐに料理出てくるのかな…?
そんな危惧を抱きながらもとりあえず、挨拶するべくふたりの所へ移動する。
「おはよう、アレン!」
「あっ、おはようございま―「アラん!?この子も新入りさん?!んまー!これまた本当にすっごくカワイイ子わー!」……す」
アレンの言葉を遮って、ジェリーさんは身を乗り出してきた。
さすがはジェリーさん。
言動がパワフルだ。
ちょっと押されたけど。
「あははは…。えっと、はじめまして。世羅・相模です」
「アタシはジェリーよ!何食べる?何でも作っちゃうわよ、アタシ!!」
「ん〜、まだ悩んでるから…アレン?先どうぞ」
横で凹んでいるアレンに、慰めるためにも声をかけた。
台詞遮られたのがそんなにショックだったのかな?
朝食の存在を思い出したアレンは、簡単に立ち直って、まるで何かの呪文のように料理名を唱え始めた。
「あっ、はい。それじゃあ…グラタンとポテトとドライカレーとマーボー豆腐とビーフシチューとミートパイとカルパッチョとナシゴレンとチキンにポテトサラダとスコーンとクッパにトムヤンクンとライス。あとデザートにマンゴープリンとみたらし団子20本。全部量多めで」
…やってしまった。
アレンより先に頼もうと思っていたのに!
ついそれを忘れて(あまりにアレンが凹んでいたから!)、アレンに先に注文させてしまった。
後悔してももう遅い。
「あんたそんなに食べんの…?」
知っていた俺でさえも固まってしまったのだから、当然ジェリーさんは唖然としている。
よく噛まずに言えたな…アレン。
アナウンサーになれるよ。
というかよくそんなに料理名が出てくるな…。
うん。わかってた。
わかってたけど、生で聞くと、これは…
(あのさ黒燿。まさか俺もこうにはならないよね…?)
『………多分』
同じ寄生型として、しかもついさっき話していたことを思い出して、げんなりとする。
俺がアレンみたいになる可能性はかなりあるみたいだけど、
ならないと願いたい…
そんなこんなで遠い目をしていたら、アレンがこちらを振り向いた。
「世羅はもう決まりましたか?」
…あ、やばっ、何も考えてなかった!!
アレンの聞いたあとじゃあ何か気が引けるけど、お腹減ったしなぁ…。
ん〜オムライスとかもいいしな〜でも和食もいいな〜…
でも朝からずっしりしたものもどうかと思うし、定番に焼き魚の定食とかでもありかなって。
アレン(の食欲)に対して失礼なことを考えていたこともあって、苦笑を浮かべながら返そうと思ったら――
「あ〜うぅ〜…う〜ん…ごめん。まだ決まって「何だとコラァ!!」 な…ぃ?」
俺の言葉は怒声によって掻き消されてしまった。
こちらこそ何っ?!
確かに、言葉を遮られると凹むなあ、本当に!!
「うるせーな」
怒声と共に、ここ1日で馴れ親しんだ凛とした声が響き渡った。
言わずもがな声の主は神田ユウである。
あぁ!そういえば、こんなシーンあったあった!!
蕎麦食べているユウがその後ろの席の人と喧嘩になって、それをアレンが止めに入って2人が犬猿の仲になるっていう場面だったよな!
…というか蕎麦いいなぁ〜。
これは2人の話だから早々と止めに入るのは良くないだろう、と勝手に判断したため俺の関心事はユウが食べていた蕎麦にのみ注がれた。
そう言えばこっちに来る前も、長い間蕎麦を食べてなかった気がする。
よしっ!今日は蕎麦にしようっと!
「ジェリーさ〜ん!蕎麦お願いします!あっ、2段で!」
「えっ?あっ、あぁ、わかったわ」
ジェリーさんは騒動に気をとられていたが、声をかけると仕事(特にアレンの大量の注文)を思い出し料理の手を動かし始めた。
よし!忘れずに2人前をちゃんと頼んから、おっけーと。
自分の用事を済ませてから、騒ぎの方はどうなっているのかと再び視線をユウへ向けると、
「ストップ。関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」
「……放せよ、モヤシ」
アレンが止めに入った所だった。
よしっ!そろそろ俺も止めに行こうっと!
少し早足で2人の所へ向かう。
その間にも2人の会話は白熱していった。
(モヤ…っ!?)
「アレンです」
「はっ、一ヵ月で殉職なかったら覚えてやるよ。ここじゃバタバタ死んでく奴が多いからな。こいつらみたいに」
「だからそういう言い方はないでしょ」
(別にパッツンに名前覚えてもらわなくてもいいですよ。僕は世羅さえ覚えていてくれてればいいですから。ていうかパッツンの分際で世羅に馴々しいんですよ!)
「早死にするぜ、お前…キライなタイプだ」
(はっ…僻んでんじゃねェよ。モヤシ)
「そりゃどうも」
(パッツンごときを僻むほど暇じゃないですよ)
((((だ、誰か助けてくれぇ〜))))
一同、心の叫び。
かわいそうに一番の被害者は周りにいた無関係の人々だろう。
何故だか2人の周りにどす黒いものが流れていた。
『あいつらの副音声すげえなー』
(?何のこと?)
『心が綺麗な奴には聞こえない音だから気にすんな』
(?)
良く分からないが、いいらしい。
というか黒燿は神様なのに、心が綺麗じゃないのか。
頃合を見計らい、俺は2人の間に滑り込み、ついでにデコぴんしてやった。
迷惑行為に対する罰だとでも思ってくれ。
「ストォップ!!二人ともそこまで!てか何で会ったばっかなのに敵対してんの?」
何も知らない振りをして問い掛ければ2人は一瞬俺を見た後、さっきよりも激しく火花を散らし始めたからだ。
なんだよ2人して?
漫画でもこんな感じだったっけ?
『まぁお互いライバル意識メラメラなんだろうよ』
(あの黒燿サン、意味わかんないんですケド…)
『…はぁ』
ため息つかれたっ!?
そのことに少しショックを覚えながらも、一先ずユウの方を向く。
すっごく不機嫌なのがわかったけど、
でも、こういうのは一回ハッキリ言わないと!!
人差し指をびしっとユウに突き出す。
漫画を読んで思ってたことをビシッと言いたい!
「ユウ言いすぎ!サポートはサポートで大事なんだから、探索部隊さん達をぞんざいに扱っちゃ駄目だろ!それと、言いたいことはわかるけど言い方を考えなきゃ、無駄に敵作ることになるよ?」
ユウだけではなく、探索部隊の人にも言いたいことがあったので、くるりと体の向きを変える。
その厳つい風貌に怯みそうになるが、心を奮い立たせる。
相手が厳つい人だろうが何だろうが、言いたいことは言ってやる!
「貴方達も皆が使う食堂でめそめそしない!せっかくの美味しいご飯も不味くなっちゃうだろ?ご飯は笑顔で食べる!これ鉄則!じゃなきゃ作ってくれた人に迷惑だと思わない?ジェリーさんに謝る!」
そこまで言ってて、何故だかふいに悲しくなってきた。
何で仲間ないでいがみ合ってんだろう。
そりゃ、昨日入ったばっかだけどさ、漫画を読んでどんな状況か知ってるし、俺らって皆協力し合うもんじゃないの?
そう思うと、自然と口から言葉が漏れてきた。
「サポートしてやってる、でも、サポートしかできない、でもどっちでもないだろ。何で人はすぐに優劣を付けたがるんだろうね…。皆ちっぽけな一つの命であることには変わりないって言うのに…。どっちだって大切なんじゃないの?」
そこまで言ったところで、我に返った。
我に返ったというか、やりすぎたことに気がついたというか…
静まり返った食堂に俺の声はかなり響いていた。
うっわぁ〜めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
何、若造が人生(?)語っちゃってんのって感じですよね!
「はいはい、喧嘩両成敗!!これにて一件落着!ほらほら皆席に戻って!せっかくのおいしい料理が冷めちゃうよ!ジェリーさんに怒られちゃうよー」
気まずいので、わざと明るい声に切り替えた。
パンパンと手を叩き周りを促すと、食堂内の空気はいつもと変わらないものへと戻っていった。
((((てっ天使だぁ!!))))
まさに救世主である。
こうして、世羅は気付かぬ間にファンを増やしていったのであった。
(2014.10.30 修正)
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