2日目の朝    [ 32/159 ]

「やっぱり夢じゃなかったんだ…」




仰向けになった状態で、真上に手をかざす。
しばらくぼうっとそれを眺めてから、感触を確かめるように握ったり開いたりを繰り返す。

質量もある。柔かみもある。
暖かさも感じる。

ちゃんと血が通っている手だ。
俺は生きている。



目が覚めた時、今自分がいる場所が何処だか分からなかった。

見慣れない天井。
見慣れない寝具。
見慣れない部屋。

驚いて飛び起きてしまったが、寝呆けた頭で、昨日あの黒の教団に入ったことを思い出し、再びベッドに寝転がった。
現実感が沸かない。

起きたら自分の家でした。
なんてこともありえるかな?なんて思ってたけど…やっぱ夢じゃなかったんだ。

うわー…やっぱ俺Dグレの世界にいるんだ…。


窓から差し込んでくる光は、この世界も変わらずに眩しかった。





『やっと起きたか』



頭の中で声がした。
呆れを含んだその響きに、自分の中に別の存在がいるということを再確認する。

でも、これも夢じゃない。
不思議には思うけども、もう驚かない。



「おはよう、黒燿」

『…おはよう』


長過ぎる名前が嫌になって付けた名前で呼ぶと、少し間が空いてから返事が返ってきた。

そんな様子にくすっと笑いが零れる。
そこまで余裕が出たのだ。
我ながら適応能力が高いと思う。

きっと、事情を知っている者が傍にいてくれる安心感の方が勝っているからなんだろうなと思う。


とりあえず身仕度を整えるため、俺は起き上がった。




昨日部屋に入った後、黒燿から簡単な説明を受けた。


なんでも、黒燿は元はすっごく偉い神獣で、ひょんなことから間違ってイノセンスを食べてしまったらしい。
偉い神様なのに、よく分からないものを食べたのか、と思わずつっこんでしまった。
生きている間は少し力が強くなったくらいで支障はなかったらしいんだけど、寿命が尽きた時(神獣は予め寿命が決まってるらしい)、消える間際にイノセンスに取り込まれたというか、同化してしまったというか、まあそんなところらしい。

イノセンスとなった後は適合者探しの日々で、元から次元を移動する力を持っていた黒燿はこの世界で適合者が見つからなかったため、だめもとで他の世界も探して見ることにして―――




見つけたのが俺、と言う訳だとさ。



それと、なんで俺が2つイノセンスを持てたのかと言うと、黒燿も一応適合者扱いだかららしい。

このイノセンスの適合者が黒燿。

で、イノセンス化した黒燿の適合者が俺。

細かくいうと俺は適合者じゃなくて、半適合者みたいなものらしく、例えるなら人の武器を借りて使っているみたいな?
だから、もう1個イノセンスが持てたんだって。

それがちゃんとした俺のイノセンス。

本当に適合者だったよ俺…!





ただ、複雑すぎる内容には当然驚いたけど…



まさか黒燿が人になって出て来るなんて、驚きを通り越して固まったよ!?
というか、出入り自由だったのかっていう二重の驚きもあったんだけれどね!!
でもそれについては、自力で出てくるには負担がかかるらしく、滅多に出来ないそうだ。

今回は、こっちの方が説明しやすいからとか言う理由で出て来たんだけど……ありえないくらい美形さんデシタ。

傾国の美女って言葉があるけれど、黒燿なら傾国の美男でもいけると思う。

だって身長は羨ましいくらいに高いし、足長くてスタイルいいし、金髪はサラサラで綺麗だし、瞳もビー玉みたいで綺麗な翡翠色だし、おまけに、お前実は人形なんじゃって言いたくなるぐらい顔整ってるんだもん!!

なんでイノセンスなんかやってるのさって言いたくなるよ、ほんとに。
モデルとかになったら絶対、人気者になると思うのに…



『おうおう。そんなに褒めてくれてありがとよ』

(ちょ…、お願いだから、あんまり心の声覗かないでよ!)

『聞こえてくんだから、仕方ねえだろ?』

(聞こえないフリしといて!)


そうなのだ。
唯一不便なことが、思ったことが全部筒抜けになるところだ。
しかも俺だけで、黒燿の考えていることは分からないという不公平さ。


これじゃあ、変なこと考えられないじゃんか…


『エロいことか?』

(違います!考えません!)

『なんだ。面白くねぇなあ』


楽しそうに笑う黒燿に、絶対考えてやるものかと拳をぐっと握り締めて決意した瞬間、



ぐううううううっ





俺のお腹が鳴り響いた。



『…そろそろ食堂行ったらどうだ』


思えば、俺こっちの世界に来てから何にも食べてないじゃん…!!



「うわぁ、そう思うと猛烈にお腹が空いてきた…。よしっ!さっさと朝ごはん食べに行きますか!」



腹が減っては戦は出来ぬっていうしね。












部屋を出て、昨日リナリーに教えてもらった行き方を思い出しながら食堂へと向かう。
広すぎて途中何回か迷ったが、アレンみたいに方向音痴ではないから、無事に辿り着きそうだ。
まあ、黒燿の力も借りたけれども。



ごっはん、ごっはん、朝ごはん〜♪



俺は鼻歌を歌いながら歩いていた。
(ちなみに作詞・作曲俺)
それに、顔がだらしなく緩んでるのはしょうがないと思う。





だってジェリーさんの料理が食べれるんだよ!!



1回でいいからジェリーさんの料理食べてみたかったんだ〜!
漫画読んだ時からずっと思ってて〜、まさか夢が叶うなんて…っ!!


まだ見ぬジェリーさんの料理に心は踊りっぱなし。
心はフラメンコ!
今なら何でも出来そう。



『落ち着けよ、お前』

(いや、だって、ジェリーさんのご飯だよ!?)

『知らねえよ。そんなことより、よく周りを見ろ』

(?)



――確かに、さっきから行く人来る人皆に見られてる気が…


だがしかし視線を感じるのに、目があうとすぐに逸らされる。


やっぱり一人で笑ってるのって気持ち悪い?!
しかも鼻歌歌ってるから尚更だったり?!


『自覚あんなら、やめとけよ』

(今、気付いたんだよ〜)


また違う人と目があったので、今度は、変な人じゃないんですよ、という意味を込めて笑いかけてみたが…

物凄い勢いで走り去ってしまった。


何故?



『鈍いなあ……まぁ、気にすんな』

(?)

そう言われると余計に気にはなるのだけれど…
考えてもわかんなかったから放っておくことにした。

俺の気のせいかもしれないし、さっきの人だって急用思い出しただけかもしれないじゃん!




(そういえば黒燿ってご飯食べるの?)


ひとつ問題が片付いたので、そういえば思っていたことを聞くと、




(食べれるの?)

『食べるわけ…―――



あ、いや……世羅、お前2人分ぐらい頼め』


言葉を区切り少し考えるような間を空けた後、黒燿はいきなりそう言いだした。



「えっ、食べれんの?!」

『いや、うっかりしてたけど、俺はお前からエネルギー貰ってるから、お前は俺の分まで食べないといけないことになる』


俺もうっかりしていた。

そうだよな。
普通に考えたら、黒燿はイノセンスなんだから食べるわけないか。
なんか黒燿って、喋ったり実体化したり色々出来るから、食べれるような気がしたんだよなぁ。


「わかった。要はいつもの2倍食べればいいってことだな?」

『そういうことだ』


(2014.10.30 修正)



*prev / next#

目次へ
しおりを挟む



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -