おまけ)独白 side:神田    [ 30/159 ]

部屋に入るとそのままベットに沈んだ。見るともなしに天井を見る。




――考えるのは今日会った変な奴のことばかり。


不覚にも、初めてアイツに会ったときあの黒い炎が似合うと思ってしまった。
俺と同じようで違う黒い髪、綺麗な黒い瞳。




アイツは変だ…



会って間もない奴の手当てをして、知らない奴の為に怒って…。

それに…苦しみなんて知らず幸せに生きていた甘ちゃんだと思ってた。
けど、違った。
アイツはアイツなりの苦しみを抱えていたのがわかった。


だったら何で…何で敵に対してあんなに優しさにあふれた言葉を掛けられる!?



――やっぱりアイツは変だ。





頭の中で理性が警告してくる。





  “深く人と関わるな”

わかってる…







 “他人のことに心を奪われるな”


わかってる……








 “お前は戦場にいるんだ”




わかってる…っ!!





手をかざして、握り締める。それを見つめる。



ガチャ



と、ノックなしにいきなりドアが開いた。入ってきたのは今まさに考えの中心人物のアイツだった。
入るなり深々と頭を下げだす。




「なっ?!」

「さっきはゴメン!強く言いすぎたと思う!ユウも任務疲れとかあるもんね…。そこんとこ考えてなかった。ごめんっ!あっ、これコート返す。ありがとっ!じゃあ俺部屋に戻るね!お隣さんなんでよろしく!!」



そう言って去ろうとしたアイツの腕を咄嗟に掴んで止める。



何で止めたんだ…?



とりあえず止めたんだから何か言わないといけない。




「…ノックくらいしろ…」

「あっ…ごめん…」


思いついて出てきた言葉は余計にコイツを凹ましてしまった。



何やってんだ…俺。



コートを俺に返したからコイツは今、あの破れた服でいるわけで…
嫌でも破れた所から見える肌が目についてしまう。




「…そこで待ってろ」


そんなに服を持っているわけでもないが、服を上下一着ずつ取ってアイツに渡す。



「やる。これでも着てろ」

「えっ!?いいよっ」


受け取らないアイツに服を押しつけて無理やり持たす。



(こんの鈍感馬鹿がっ!んな格好でうろついてみろ、何されるかわかったもんじゃねェぞ!!)


そんなことはさすがに言えねぇから――





「んな格好でうろつかれちゃ迷惑だ」

「……ありがと。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うね?あっ、休んでた所、邪魔してごめん。じゃっおやすみ!」



静かに閉まるドアを見つめる。
アイツは服を受け取って、笑顔でおやすみと言って帰っていった。




――誰かにおやすみと言われたのは久しぶりかもしれない…




しばらくアイツが出ていったドアを見つめていると、笑えてきた。




理性の囁きなんて無視すればいい。俺は今、最高に嬉しい気分なのだから。

この良くわからない感情に何と名前つけようか…


男だったと知った時は驚いたが、何も変わることはなかった。
男だろうが女だろうが知ったことじゃねぇ。

アイツはアイツなのだから…――









とりあえずモヤシ、あいつは敵だ!




(2006.12.05)
(2007.01.06 修正)
(2007.06.17 修正)



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