部屋に入るとそのままベットに沈んだ。見るともなしに天井を見る。
――考えるのは今日会った変な奴のことばかり。
不覚にも、初めてアイツに会ったときあの黒い炎が似合うと思ってしまった。
俺と同じようで違う黒い髪、綺麗な黒い瞳。
アイツは変だ…
会って間もない奴の手当てをして、知らない奴の為に怒って…。
それに…苦しみなんて知らず幸せに生きていた甘ちゃんだと思ってた。
けど、違った。
アイツはアイツなりの苦しみを抱えていたのがわかった。
だったら何で…何で敵に対してあんなに優しさにあふれた言葉を掛けられる!?
――やっぱりアイツは変だ。
頭の中で理性が警告してくる。
“深く人と関わるな”
わかってる…
“他人のことに心を奪われるな”
わかってる……
“お前は戦場にいるんだ”
わかってる…っ!!
手をかざして、握り締める。それを見つめる。
ガチャ
と、ノックなしにいきなりドアが開いた。入ってきたのは今まさに考えの中心人物のアイツだった。
入るなり深々と頭を下げだす。
「なっ?!」
「さっきはゴメン!強く言いすぎたと思う!ユウも任務疲れとかあるもんね…。そこんとこ考えてなかった。ごめんっ!あっ、これコート返す。ありがとっ!じゃあ俺部屋に戻るね!お隣さんなんでよろしく!!」
そう言って去ろうとしたアイツの腕を咄嗟に掴んで止める。
何で止めたんだ…?
とりあえず止めたんだから何か言わないといけない。
「…ノックくらいしろ…」
「あっ…ごめん…」
思いついて出てきた言葉は余計にコイツを凹ましてしまった。
何やってんだ…俺。
コートを俺に返したからコイツは今、あの破れた服でいるわけで…
嫌でも破れた所から見える肌が目についてしまう。
「…そこで待ってろ」
そんなに服を持っているわけでもないが、服を上下一着ずつ取ってアイツに渡す。
「やる。これでも着てろ」
「えっ!?いいよっ」
受け取らないアイツに服を押しつけて無理やり持たす。
(こんの鈍感馬鹿がっ!んな格好でうろついてみろ、何されるかわかったもんじゃねェぞ!!)
そんなことはさすがに言えねぇから――
「んな格好でうろつかれちゃ迷惑だ」
「……ありがと。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うね?あっ、休んでた所、邪魔してごめん。じゃっおやすみ!」
静かに閉まるドアを見つめる。
アイツは服を受け取って、笑顔でおやすみと言って帰っていった。
――誰かにおやすみと言われたのは久しぶりかもしれない…
しばらくアイツが出ていったドアを見つめていると、笑えてきた。
理性の囁きなんて無視すればいい。俺は今、最高に嬉しい気分なのだから。
この良くわからない感情に何と名前つけようか…
男だったと知った時は驚いたが、何も変わることはなかった。
男だろうが女だろうが知ったことじゃねぇ。
アイツはアイツなのだから…――
とりあえずモヤシ、あいつは敵だ!
(2006.12.05)
(2007.01.06 修正)
(2007.06.17 修正)
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