優しさの欠片    [ 20/159 ]

「適合者か?イノセンスは何処だ」




知らないふり知らないふり!


失敗しないように心の中で、繰り返し唱える。




「えっと…適合者とかイノセンスって…何、でしょうか?」


嘘がばれないかとドキドキしながら神田の出方を伺う。



チッ。さっきの奴を倒した時に使った武器はどこだ」



生舌打ち!!
でも良かった〜。ばれてないみたい。

安心したら少し心に余裕が出来てきた。

ボロが出ないぐらいには会話を楽しまなくちゃね!




「どこって…う〜ん。敢えて言うなら、体の中、かな?」


首を傾げながらそう言うと、一瞬神田が目を開いた。
そういえば寄生型は珍しいんだっけ。




「…寄生型か」



ここも知らないふり、知らないふり、だ。



「へっ?“寄生型”って俺、寄生されてんの?!」


こっわ〜…っと続ける。(白々しかったかな?)

でもこれは嘘じゃないぞ!漫画で読んだとき思ったもん!

なんて、少しでも罪悪感が薄れるように心の中で言い訳をしてみた。




「…ついて来い」


神田は俺を一瞥した後、小さくため息をついて歩きだした。


スルーされた!?
なんかクールさ加減が翔に似てるな〜


そう思うと親近感がわいた。
神田とも上手くやっていけそうな気がする。


翔、か。
別れてからまだ数時間しか経ってないけれど、何だか恋しくなってしまった。

もう、会えないのかな。



「……会えないだろうなぁ」

「・・・」

「あ、ごめん。何でもない」


考えていた事が口から漏れ出ていたらしく、神田が訝しげに振り返ったので、謝っておいた。

危ない危ない。
出会って早々に独り言の多い奴だと思われるところだった。


翔のことは、とりあえず落ち着いてから考えよう。













それから10分ほど歩いた所で、いきなり神田が立ち止まった。

ここに何か用があるのかな?
でも周りを見渡してみても、廃墟しかない様に見えるけど。




「?」

「…連絡するなら勝手にしろ」



そう言って、ぶっきらぼうに神田は電話らしきものを指差す。

ただの気まぐれかもしれない。

だけれど、

さっきの俺の発言を聞いてくれていたのかもしれない。
寂しがっている気持ちを分かってくれたのかもしれない。


そう思うと、嬉しさがこみ上げてきた。
同時に寂しさで冷たくなっていた胸が暖かくなるのを感じた。

やっぱ神田って実は優しいんじゃん!



漫画で読んだだけじゃ、わかんないものなんだなぁと改めて思った。



「ありがとう」

「とっととしろ」

「でも、かける所はないんだ。両親はもう死んじゃったし、俺一人っ子だから。友達も電話が繋がる所にいないし…」

「・・・」

「ごめんね?わざわざ探してもらったのに」



そう。実を言うと俺、親とかいないんだよね。
4年前に交通事故で2人とも他界してしまった。
親戚との仲も悪かったみたいで、一応保護者として名前を貸してくれる人は見つかったけれど、育ててくれる人はいなかった。
だから俺は、それからずっと一人暮しをしていた。
幸い、よく手伝わされていたから男の割には家事が得意だったし、たくさん貯金も残してくれていたし、不自由を感じたことはなかった。


そもそも、例え電話をかける相手がいても、さすがに異世界には繋がんないと思う。
神田の優しさが無駄になってしまったので申し訳ない。






「…別に。たまたま見つけただけだ。行くぞ」



そう言って神田は再び歩きだした。







――なんかいいかも。



そう思った。


俺の周りの奴らはこういう話をすると、可愛そうって気を遣ってきたから…
別に心配されるのが嫌な訳じゃなくて、特別視されるのが嫌だった。

だから、神田みたいにサラリと流してくれるのってなんかいい。
ただ無関心なだけかもしれないけど、すごく嬉しい。



顔が自然とにやけてきた。





――神田と仲良くなりたい!!




急に元気が湧いてきた。
そうと決まれば、アタックあるのみだ!






「ちょっと待って!!」



かなり先まで進んでしまっていた神田に追い付こうと駆け出し、横に並ぶ。



「俺は世羅!相模世羅。世羅でいいから!えっと名前教えてくれない?」


2・3歩前に出て正面から神田と向き合い、笑顔で自己紹介をした。
ついでに手を出すのも忘れない。



なんかナンパっぽいかな?
ちょっとそう思ったけど、気にしないことにした。




「…神田…ユウ」


渋りながらも名前を教えてくれた。神田は俺が出した手を軽く握り、すぐに放した。
そのまま早足で俺を追越して歩き出した。ちらりと見えた横顔が赤くなっていた気がする。



夕日のせいかな?










(お約束と言うべきか世羅は鈍かった)


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