「適合者か?イノセンスは何処だ」
知らないふり知らないふり!
失敗しないように心の中で、繰り返し唱える。
「えっと…適合者とかイノセンスって…何、でしょうか?」
嘘がばれないかとドキドキしながら神田の出方を伺う。
「
チッ。さっきの奴を倒した時に使った武器はどこだ」
生舌打ち!!
でも良かった〜。ばれてないみたい。
安心したら少し心に余裕が出来てきた。
ボロが出ないぐらいには会話を楽しまなくちゃね!
「どこって…う〜ん。敢えて言うなら、体の中、かな?」
首を傾げながらそう言うと、一瞬神田が目を開いた。
そういえば寄生型は珍しいんだっけ。
「…寄生型か」
ここも知らないふり、知らないふり、だ。
「へっ?“寄生型”って俺、寄生されてんの?!」
こっわ〜…っと続ける。(白々しかったかな?)
でもこれは嘘じゃないぞ!漫画で読んだとき思ったもん!
なんて、少しでも罪悪感が薄れるように心の中で言い訳をしてみた。
「…ついて来い」
神田は俺を一瞥した後、小さくため息をついて歩きだした。
スルーされた!?
なんかクールさ加減が翔に似てるな〜
そう思うと親近感がわいた。
神田とも上手くやっていけそうな気がする。
翔、か。
別れてからまだ数時間しか経ってないけれど、何だか恋しくなってしまった。
もう、会えないのかな。
「……会えないだろうなぁ」
「・・・」
「あ、ごめん。何でもない」
考えていた事が口から漏れ出ていたらしく、神田が訝しげに振り返ったので、謝っておいた。
危ない危ない。
出会って早々に独り言の多い奴だと思われるところだった。
翔のことは、とりあえず落ち着いてから考えよう。
それから10分ほど歩いた所で、いきなり神田が立ち止まった。
ここに何か用があるのかな?
でも周りを見渡してみても、廃墟しかない様に見えるけど。
「?」
「…連絡するなら勝手にしろ」
そう言って、ぶっきらぼうに神田は電話らしきものを指差す。
ただの気まぐれかもしれない。
だけれど、
さっきの俺の発言を聞いてくれていたのかもしれない。
寂しがっている気持ちを分かってくれたのかもしれない。
そう思うと、嬉しさがこみ上げてきた。
同時に寂しさで冷たくなっていた胸が暖かくなるのを感じた。
やっぱ神田って実は優しいんじゃん!
漫画で読んだだけじゃ、わかんないものなんだなぁと改めて思った。
「ありがとう」
「とっととしろ」
「でも、かける所はないんだ。両親はもう死んじゃったし、俺一人っ子だから。友達も電話が繋がる所にいないし…」
「・・・」
「ごめんね?わざわざ探してもらったのに」
そう。実を言うと俺、親とかいないんだよね。
4年前に交通事故で2人とも他界してしまった。
親戚との仲も悪かったみたいで、一応保護者として名前を貸してくれる人は見つかったけれど、育ててくれる人はいなかった。
だから俺は、それからずっと一人暮しをしていた。
幸い、よく手伝わされていたから男の割には家事が得意だったし、たくさん貯金も残してくれていたし、不自由を感じたことはなかった。
そもそも、例え電話をかける相手がいても、さすがに異世界には繋がんないと思う。
神田の優しさが無駄になってしまったので申し訳ない。
「…別に。たまたま見つけただけだ。行くぞ」
そう言って神田は再び歩きだした。
――なんかいいかも。
そう思った。
俺の周りの奴らはこういう話をすると、可愛そうって気を遣ってきたから…
別に心配されるのが嫌な訳じゃなくて、特別視されるのが嫌だった。
だから、神田みたいにサラリと流してくれるのってなんかいい。
ただ無関心なだけかもしれないけど、すごく嬉しい。
顔が自然とにやけてきた。
――神田と仲良くなりたい!!
急に元気が湧いてきた。
そうと決まれば、アタックあるのみだ!
「ちょっと待って!!」
かなり先まで進んでしまっていた神田に追い付こうと駆け出し、横に並ぶ。
「俺は世羅!相模世羅。世羅でいいから!えっと名前教えてくれない?」
2・3歩前に出て正面から神田と向き合い、笑顔で自己紹介をした。
ついでに手を出すのも忘れない。
なんかナンパっぽいかな?
ちょっとそう思ったけど、気にしないことにした。
「…神田…ユウ」
渋りながらも名前を教えてくれた。神田は俺が出した手を軽く握り、すぐに放した。
そのまま早足で俺を追越して歩き出した。ちらりと見えた横顔が赤くなっていた気がする。
夕日のせいかな?
(お約束と言うべきか世羅は鈍かった)
*prev / next#