首にあたる冷たい感触。
背中越しでも分かる冷たい視線。
予想が外れていなければ、当てはまるのは唯一人。
「かんっ…!?」
そこまで叫んで、慌てて口を手で覆った。
あっぶね〜!!
俺今、神田って言いかけたよっ!
初対面なのに名前知ってたらおかしいじゃん!
背後にいるので姿はまだ見れてないが、視界に入るほどの長い綺麗な黒髪と少し荒っぽい口調で神田だとわかった。
初のD.グレキャラとの遭遇に感動し、興奮する。
生神田だ!生だよ生っ!!
やっぱ美人なのかな?
思ってたよりも美声だ!
それに髪の毛さらさら!!
―って、違う違う!!
ずれた思考を本道に戻し、これからの自分の方針について考える。
俺が読んだのは8巻までだから、それまでの未来なら知っていることになる。
キャラ達よりもキャラ自身のことを…――
知らないはずのことを知ってちゃまずいよな?
う〜ん…一番いいのは、何も知らないふり、か…?
先を知っていて良いことなんてないよな…?もしかしたら俺が知っている未来が変わっているかもしれないし…
よしっ、嘘つくのは嫌だけど頑張ろ――
「おいてめぇ!聞いてんのか?!」
考えがまとまったのを見計らったかのようなタイミングで放たれた怒声によって現実へと戻された。
いつの間にか首に当てられていた刀はしまわれていた。
「へっ?あっごめんなさい!ちょっと自分の世界に行ってマシタ…」
俺は謝りながら振り返った。
神田との初顔合わせなので、緊張する。
完全に後ろを向くと、目が合った。何故か神田はすごく驚いて、息を呑んだのがわかった。
ん?何で?
……もしかして何か悪かった!?顔か!?顔が悪かったのか?!
それとも同じ日本人だからかな?予想外だったとか?(どっちかというとこっちであって欲しい)
まぁそんなことは置いといて、想像以上に神田はかっこよかった。
きっともてるんだろなぁ、とか羨ましくなる。
そういえば、D.グレのキャラは美形ばっかりだっけ。
…俺、今からそこにお邪魔するのか?うわっ!絶対浮くっ!!
悲しくなるなぁ…
なんて俺が凹んでいる間に神田は驚いていた表情を元の無表情に戻し、同じ質問を繰り替えしてきた。
「…お前は何者だ」
「何者って言われても……何なんデショ?」
何て答えればいいんだろう…?
さすがに異世界から来ました〜、なんて言えるわけないし、ねぇ?
まず不審がられるな。
俺の緊張感が全く感じられない、曖昧すぎる意味不明な返事に、さすがの神田も顔を崩した。
「はぁっ?!……まぁいい。さっきのはお前がやったのか?」
まぁいい、で流された…
もっといろいろ聞かれるかと思ってたのに。
神田にしては適当だな〜とか思いながらも、深く追求されると困るので、気にしないことにした。
「さっきの?あぁっ!さっきのアクっ……あっあっあくっ悪夢になりそうな顔してた変なヤツのことっ?」
緊急事態(未遂)発生!!
口が滑った!アクマって言いそうになったよ!
さっき何も知らない振りするって決めたばっかなのに!俺のドジ〜!!
神田は途中で変などもりがあったことは気にしてないのか、普通に返してきた。
「そうだ」
「なら多分そうだと思う?」
俺の心は水溜まりが出来るんじゃないかと思えるくらい、冷や汗だらだらだった。
はあぁぁ…
ボロ出さずに会話続けれるかな?
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