黒燿    [ 15/159 ]

ようやく勝利の余韻が覚めると、さっきの声の主のことを思い出した。



「そうそう!!結局、誰?」

『…俺はお前のイノセンスだと言っただろ』



呆れたように言われた声に、言葉に、既視感を感じる。



ん〜…デジャヴ……?











あっ、わかった!!







「夢の中の声の人!!」

『はぁ…。やっとわかったか』



やっと思い出してそう言うと、ため息をつかれてしまった。

ちょっとショックうけたよ、俺!






「で、誰?」


もう一度改め直してそう聞くと、不思議なことにこの人がずるっとずっこけたのがわかった。



『だ〜か〜ら〜っ、俺はお前の――

「そうじゃなくて、名前聞いてんの!!」

――あっ…あぁ……。俺は、ヴィルディス・R・アクレイオス・キルヴビィ・レイ・A・スコール・クリスト・ハデス だ』



名前が聞きたいと言った俺に、美声が述べたのは、片仮名の羅列。
にしか聞こえない名前?







・・・





いっ今の何…?
新手の呪文かなんか…?





「えっと…ワンモアプリーズ?」

『ヴィルディス・R・アクレイオス・キルビィ・レイ・A・スコール・クリスト・ハデス だ』



やっぱり新手の呪文にしか思えない。
えっと、何だっけ?
ヴィ、ヴィルディス・R・アクレイオス・キルヴィ…あれ次なんだっけ?
スコール?
いや、違うな…。
てかどれがファーストネームなんだ?
どれで呼べばいいんだ?










・・・








「長いし覚えにくいし呼びにくいっ!!!どこぞの門番かっ!!」

『誰だよそれ』

「もういい!!黒燿!!!」

『はっ?』


俺はふっと頭をよぎった名前を叫んだ。

あだ名をつけるっていうよりもむしろ命名に近いけど、呼びにくい名前呼ぶよりましだ!
それに俺の直観が名前をつけろって叫んでる!


もちろん黒燿からは間抜けな声が返ってきた。
それを敢えて無視する。


「名前だよ。な・ま・え。今からあんた黒燿な!!」

『名前つける必要ねぇだろ!?』

「大アリ!!呼ぶときそんなに長かったら呼びづらいだろ!?
それとも、他の名前がよかったのか?タマとかポチとか一郎とか普通な方がよかった…?」

『・・・』


ネーミングセンスが悪いのかと不安になってそう聞くと、絶句されてしまった。

一郎とかよりも黒燿の方がいいと思ったんだけど…。
黒燿が駄目なら、オーソドックスに慎一郎とか健太郎とか?
あ、ちょっとカッコよく龍太郎とか!

そんなことはつらつらと考えていたら、諦めたような声が聞こえてきた。
どうやら他の名前の方が嫌だったらしい。



『………黒燿でいい』

「じゃあ黒燿で決まり!!」


俺は嬉しくなって微笑んだ。
やっと笑えた気がする。
周りから見れば俺は1人だけれど、俺は1人じゃない。
1人じゃないってことがこんなにほっとするなんて。

黒燿かぁ〜。
良かった。
俺のイノセンスが黒燿で。





「あっ忘れてた!!」

『・・・今度は何だ』


俺が小さく叫ぶといいかげん欝陶しそう返された。
めげずに続ける。
だって大事なことだもん。


「相模世羅!俺の名前!世羅でいいから!名前つけたのに、俺が名前教えてないのおかしいもんな!」

『・・・』


そう言うと黒燿は黙ってしまった。
ちょっと沈黙が痛かったりする。

何か俺おかしなこと言ったっけ…?
いや、たぶん、ただの自己紹介しただけだと思うんだけど…。
名前が気に入らなかった…とか?


数分後やっと黒燿が口を開いた。




『……世羅』

「何っ?」


名前を呼んでくれた喜びを隠せない笑顔のまま返事をする。
ただ返ってきたのは、予想していたのとは全然違っていた。







『黒炎消せよ』







・・・







「あっ…」


あちゃ〜…完璧存在忘れてたよ。
アクマ以外に害はないとは言え、火事で通報されちゃまずいよな?
でもここ廃墟っぽいし、人いなさそうだから大丈夫かな。
いや、でも放置はマズいよな〜。

辺りにはさっきアクマを倒したときに使った炎がまだ残っていた。
黒いから余計に威圧感がある。

この炎は俺が消さないと消えないらしい。




「終焔舞。安らかに眠れ…」


手を出した時と同じようにすーっと掲げてそう唱えた。
言葉は自然に口から出てきた。
多分アクマのことなんだろうな、と納得する。

内蔵された魂達は無事に自由になれただろうか。
なれたと思いたい。
今ならちょっぴりアレンの気持ちが分かるかも。
悲しいよね。

しゅるしゅると炎は出した時とは逆に俺の腕へと集まって消えていった。


よしっ!黒炎は消したし、うん。
もう、大丈夫!
忘れてることは無い…よな!たぶん!






「それにしても…」


さっき黒炎が出てきた方の手をまじまじと見る。

ほんとに熱さ感じないんだな〜。
これで、暖とったりできないかな?
暖取れたら寒いときでも楽なのに。


…黒燿に聞いてみよ!




「なぁ、黒燿〜。これって――

『しっ…誰かきた』

……え?」


そう思って口を開いた。
が、黒燿に遮られた。
言いかけた言葉を飲み込み、息を潜める。
背後から微かに地面を踏む音が聞こえた。
雰囲気的にアクマじゃない。
アクマじゃないけど、敵意は向けられてる感じがする。








「お前は何者だ」







気配が真後ろに来た時、聞こえたのは燐とした声。
感じられるのは喉につきつけられている冷たい感触。



まさかと思い、視線を後ろに向けたそこには…――




(2006.11.26)
(2007.01.06 修正)
(2007.06.17 修正)
(2009.05.06 修正)



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