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一年前の今日、きみに恋しました《蠍座



「きゃー!!!シドニー着いたー!」
「おい、騒ぐな。迷子になるぞ」
「あ、はい、すいません。
って龍之介テンション低くない」
「む、いつも通りだ」

そう言って龍之介は私のスーツケースを引いてくれた。
私達は、今シドニーに来ている。
修学旅行として、この地に降り立った。

と言ってもオペラハウスを見る以外は自由行動で、個人旅行とそうそう変わらないんだけど。
密かに私は新婚旅行みたいだなぁ、なんて思ったり。

「ほら、行くぞ」
「うん」

ホテルに荷物を置いて、とりあえず辺りを廻ることになった。
日本の裏側にオーストラリアはあるから、季節は日本と逆で、ここは夏だった。
ノースリーブに薄めの上着を羽織って、出掛ける。

「やっぱり、日本と違うね。海岸の目の前にこんなに大きい店が並んでる」
「ああ、新鮮だな。日本人はそうそういないしな」
「うん。金髪似合うっていいなぁ」

そんなことを呟いていると、ふと龍之介が立ち止まった。気に障ったかと顔を見上げると、龍之介はどこかを見ていた。
目線を辿るとあったのはアイス屋さんだった。

「…少し、休もうか。私、アイス食べたいな」
「む、あ、あぁ、そうだな。
買ってくるからお前はここに座っていてくれ」
「うん」

パアァっと龍之介の顔が明るくなって店へと早足で歩いて行った。
私は設置されたテーブルに手荷物を置いてイスに座った。

「空が広いなあ」

ぼうっと空を見上げる。
視界を隔てる物がないこの空は、日本より遥かに大きく見えた。
ぽん、と肩に手を置かれる。

「龍之介、はやかっ、」
『カノジョ今暇?君日本人だよね、やっぱり日本の子は可愛いね。ねぇ、俺と遊ばない?』

振り返れば、知らない金髪長身の男性が立っていて、物凄いスピードで英語を話していた。
生憎英語が一番嫌いな私は何を言っているのか解らずにいた。

「そ、ソーリー、アイキャントす、スピークイングリッシュ…」
『英語喋れない?ああ、大丈夫だよ。ね?おいで』

訳も解らず手を引かれる。

「やっ、龍之介っ」
『手を離せ』
『はぁ?何だお前』

男の手が掴まれる。
見た先には男を睨んだ龍之介がいた。

『こいつは俺のだ。消えろ』
『あぁ君彼氏なんだ。駄目だよ?こんな可愛子ちゃん一人にしちゃ』
『肝に命じておく』
「Bye,kitty」

何やら龍之介と話した後に私の頬にキスをして手を振りながら去っていった。
ばーい、きでぃ…さようなら、子猫ちゃん?

「キスされた…」
「頬を貸せっ」

私の顔を掴みハンドタオルで少し強めに拭いた。
離されたときには微かに頬が赤くなっていた。

「龍之介、英語話せたんだね」
「少し、な」
「武士みたいな顔して私より英語話せるなんてずるい」
「…どういう意味だ」
「べっつにー?」

ほら、とテーブルに粗雑に置かれたカップのアイスを渡された。
あぁ、外国色。
着色料どんだけ使ってるんだっていうパッション色の大きなアイスにこれまた大きなスプーンが刺さっていた。

「…それより、すまなかった」
「え?何が?」
「一人にしなければ、怖い思いをせずに済んだだろう。すまなかった」
「…確かに、怖かったけど。龍之介は助けてくれたし、龍之介が悪い訳じゃないよ」
「む…」
「ね?はい、あーん」
そう言ってパッションアイスを掬ったスプーンを差し出す。
珍しく龍之介は何も言わず大人しく口に入れた。

「む、うまい」
「ほんと?私も食べよ。んっ、本当に美味しい!」
「ふっ」
「ん?」

すっと龍之介が近付いてきて、僅かに唇から外れた所に口づける。
ちゅ、と言う吸引音が小さくした。

「えっ!?何!?何!?」
「ついていたぞ」
「嘘っ」
「キスされると思ったのか?」
「…ばか」

龍之介が小さく笑った。
悪戯に笑う龍之介に、あることを思い出した。
龍之介を、好きになったのが一年前の今日だった。
多分、気になり始めたのはもっとずっと前だろうけど。

「龍之介、アイラビュー」
「Ilove you,too」
「発音良すぎ、ムカつく」

少し顔を赤くして、私の手を握り締めた。
溶けかけたアイスは甘くて美味しいはずなのに、あまり味はしなくて冷たさだけが口にひろがった。

一年前の今日、きみに恋しました

(そして一年後の今日も)
(きっときみを好きでいる)


ユメモノガタリ 湊音ちゃん*相互記念






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