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共影

夕焼けを見ながら屯所への帰り道を君と二人で歩いている

今日は僕が非番だったから、近所の子供たちと遊んでいた

『子供たち、今日も元気そうでしたね』

子供たちと僕たちが遊ぶのは、今回が初めてではない

『うん、そうだね。でも僕には少しうるさいくらいかな』

子供の相手とかあまり得意じゃないし、好きじゃない。

ちゃんと我慢していたんだけ。千鶴ちゃんと一緒にいれるからって理由でね。思い返しながら、僕は苦笑いしてしまう

『沖田さん?』

一人で笑っていたからか、千鶴ちゃんが僕の方を見ている

『ん?どうかした?』
『えっ、あの…なんでもないです』

なんでもないって言ってるけど、顔には気になってますって書いてあるようだ

『…本当に君は嘘が下手みたいだね。』
根が正直って羨ましいな

『千鶴ちゃんはすぐ顔に出るんだから、隠しても無駄なんだよ?』
『っ///////』

思った通り、だんだん紅く染まっていく。そこが君の良いところでもあるんだけど、…少し自覚した方がいい

『…私ばっかり楽しんで、沖田さんは、あまり楽しくありませんでしたよね…』

ほんのりと頬を染めたまま、申し訳なさそうに君は俯くから可愛いなって思ってしまう。

そんな顔されたら、僕はからかいたくなるよ?

『あははっ』

そんな表情で僕を見ないでよ
君が僕にイジメられてるみたいじゃないか
でもそれが逆効果になってる
君のそういう反応が、僕の悪戯心を煽るんだから

『そんな顔しないでよ。君に悪いことはしないからさ。』

せっかく僕の本音を教えたのに

『沖田さんがそういう顔をしてる時は、なにか怪しいんです!』

君は警戒を解いてはくれない
『ふーん。』

君ってやっぱり面白い。普通は本人を目の前にして、そういう事は言わないと思うんだけど。

『そういう顔が怪しいって、酷いな…』

警戒されちゃってる訳だけど僕には関係ないんだよね。だって、楽しいことがあったらやってみたくなるじゃない

まさかそんな反応をするとは君は思ってなかったみたい

『おっ、沖田さん…あのっ…すいませんでした』
『大丈夫だよ、僕のせいだろうから』

驚いた君の表情を見れたのは良かったけど、悲しませたいわけじゃない

『ごめんね。気分を沈めちゃって』
『謝らないでください!沖田さんは見てるばっかりでつまらなかったでしょうし』

少しは合ってるけど、つまらなくはなかった

『まぁ、子供たちの相手は面白くはなかったかな』
『…ですよね。』

ちゃんと聞いてなかった?

「子供たちの相手【は】…」って言ったんだよ

『気にしないでってば。君を見てるのは面白かったからさ』

不思議そうにしながら僕を見上げる

『だって君、子供相手に本気だったでしょ?表情がころころ変わってたよ』

そんなところまで見られていたことが恥ずかしかったみたい

『楽しかったんですから、仕方ないじゃないですか////』

感想を言っただけなのに、拗ねちゃった
君は先に歩いてく
歩幅を考えたら、すぐに追いついちゃう訳で

『拗ねないでよ、千鶴ちゃんってば。君は楽しかったんだからいいじゃない』

『そうですけど…沖田さんも一緒の方が、楽しかったと思いません?』

不満そうに口を尖らせてる

『僕がいても、そんなに変わらないと思うけど。千鶴ちゃんは、そう思ってるんだ?』

こんな子に心配された事が、照れくさくて視線を足元に落とす
夕方だから自然と影が色濃く伸びてる。今は二人で並んで歩いてるから、必然的に僕たちの影は……

さっきまでの気持ちは、どこかへ去ってしまった
それは目の前に楽しいことが見つかったから

『ねぇ、千鶴ちゃん。』

たぶんまた顔に出てるだろうけど、気にしない

『…どうかしましたか?』
『僕たちの影を見てみて』
『??』

千鶴ちゃんは道を覗き込むけど首を傾げてる

『手を繋いでるように見えない?』

隣を歩いてるから、伸びた影の先は繋がっている

『影で見えるだけです!!そういうことは好いた相手としてください!』
『だから「影」って言ってるじゃない。』

僕の声が聴こえてないみたい
小さな声でボソッと言う千鶴ちゃん。『するわけないじゃないですか…
…沖田さんの恋人でもないのに…』

千鶴ちゃんは気づいてないけど、全て聴こえた。…本当に僕を喜ばせるのが上手い

『じゃあ、僕から手を繋いじゃおっか』

グイッと千鶴ちゃんの手を引っ張る

『だから今言ったばかりっ』

言い終わる前に、僕は口を挟む

『好いた相手じゃなきゃ、繋いだらいけないんでしょ?』

『だったら、僕は繋いでもいいよね。千鶴ちゃんのこと、好きだから』

君はちゃんとわかってない
好いた相手じゃなきゃ悪戯なんかしない

『……え?』

信じられないというように、固まってしまった千鶴ちゃん
手を繋いでることが分からなくなるくらいには

彼女の手は、僕と比べると遥かに小さくて可愛らしいかった
剣を握る僕とは違って、女の子らしい柔らかさもある

『僕のこと、ただの悪戯好きだと思ってたの?』
『…は、い』
『まぁ、楽しいから嫌いじゃないけどさ。』

少しも気づかないってこの子、鈍感すぎるよね?

ハァ…

繋いだ感触確かめながら、溜息をついてしまった

『…安心しなよ。嫌いな子になんか悪戯しないから』
『それは分かりましたから』

徐々に冷静になってきたのか。

『あの…手を離してください//』

手を繋いでることを認識したみたいだ

『なんで?』

なんて言われても離すつもりはない

『…恥ずかしいからです//しかも男装でなんて、怪しいじゃないですか!』
『僕はこのままでもいいんだけど。』
『私が良くないんです!変な噂がたったら困りますから。』

必死になって言い訳してるけれど。君と手を繋ぐなんて普段ならありえないことだから、離すなんて勿体ない

『僕は別に困らないよ。』

君と手を繋ぐのは僕だけ
他の幹部たちはちゃんと我慢するだろうから

『でも、もし噂になったら、君は僕の恋人ってことになるかのかな』

半分はからかってるけど、本音も混ざってる。それは僕にとっては好都合だから

『…恋人になるなら、ちゃんと女の格好で堂々としたい…です』
『もし堂々と付き合えるとしたら…僕が「君の恋人になって」って言ったら、なってくれる?繋いだ手を口元に近づけてそっとキスをしたら

『……………』

千鶴ちゃんは真っ赤で何も言えなくなってる。言わないと気づかないだろうけど、僕は自分から想いを伝えるつもりはなかったんだ

だから早く僕を好きになって

『とりあえず、屯所に帰ろうか』
『あの…だから…手を…』
『ダメ、それは聴いてあげない』

今の君の可愛い顔が、僕といる時だけの表情なら嬉しいのにな

『そんなに恥ずかしいなら、屯所の前までにしてあげる』

それまでは離してなんかあげないよ
少しでも長く繋いでいたいから、道をゆっくり歩く
剣として生きてきた僕がこんなことを願うなんてね

もし叶うとするなら

願わくばこの影のように
寄り添いあう二人になれますように






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