キスマークはすぐに消えるから
チクリとした感覚と赤くて小さな華
『んっ』
静雄は赤くなる頬を隠すべく身を捻るがそれは叶わない。普段ならまだしも、その状況では力が抜けて振り払うだけの気力がなかった
気持ちを知っているだろう臨也が身を預けるように抱き着いてくる
『アハハハッ』
『笑うなよ』
『だってさ〜』
服の隙間で見え隠れして存在を主張しているソレを見て、ニヤつきながら唇を指先に近づける
『何度もやってるのに、シズちゃん可愛らしい反応するんだもん』
『仕方ねえだろ…慣れねえんだから』
クスクスッ
『慣れなくていいよ。シズちゃんはそのままで十分だから』
『なんでだ?慣れて欲しいんじゃねえのか』
『さあね。それは内緒』
『つか、こんな事…何度もしなくて良くねえ?』
数日かけて薄く消えかける度に臨也が上書きするかのように必ず唇を重ねる、首筋に刻まれた朱いしるし
『それは無理だよ』
『無理じゃねえだろ』
いつも消えかけたそのタイミングで臨也が池袋に現れるから、完全に消えた事は一度もない
『キスマークってさ、すぐ消えちゃうけど…』
シズちゃんの肌に映えるから好きなんだもん‐
『なっ…さ、わるな!!』
『本当に、シズちゃんは可愛いんだから』
耳元で囁く声音と唇から徐々に降りていく指先はひどく艶やかさを感じさせる。どこぞの女ならこの瞬間に堕ちてしまうのだろう
赤い瞳を細めている、歪んだ愛情の持ち主に
背筋を伝う感覚を認められず、力の入らない身体で抗おうと試みるも意味を成すはずがなかった
『んっ』
微笑を零すその息遣いがくすぐったいと思いながらも、静雄は表情を隠す為に顔を逸らした
『俺は我慢なんかしたくないし、会う口実にはピッタリでしょ?』
『当たり前みたいに言ってんじゃねえ!』
口調だけは強気にしているが、静雄は耳まで真っ赤になってしまうのだから自分に悔しくなる
そう思うからこそ目の前を見れないでいるのに、臨也は分かっていて笑顔でやっているからタチが悪い
『コレは《誰にも渡さない》って印。分かりやすく言えば《俺の》ってマーキング』
‐だから消えたら困るんだよね‐
愛しそうにソレに触れる臨也に何か言い返したいのに、うまく口が動かない
『《会いたいから会いに行く》だけじゃ駄目なのか?』
『だーめ!それじゃ面白くない』
『面白がってんじゃねえ!』
臨也からすれば人間観察の一部で尚且つ対象が好きな人間なのだから面白くしたいのも仕方ないのだろう
『どうせ言うなら《キスマークが消えないように会いに行く》って感じ』
煩い鼓動がまた一つ、騒がしくなる
『てめえは恥ずかしい事を普通に言い過ぎだ』
服を握り締めて『鎮まれ』と内心では祈るように思うけれど自分の意思では鎮まることを知らないのだ
他人なら平気なのだろうが、臨也相手では感情の渦に巻き込まれていくしかない
臨也という一人の人間は、静雄にとってそれだけ特別な存在となっていた
たかがキスマークなんかに自分を掻き乱されるほどに…
‐それは甘い蜜を騙る麻薬に溺れる感覚のようで‐
title by 確かに恋だった