新Dust | ナノ












 
ひなたぼっこ

暖かい風がそよいでく
ちょうどいい心地良さが眠くさせる
太陽が照らすこの時間が1番眠くなる

咳がよく出るから見回りも抑えられて、屯所にいるだけの退屈な毎日
自分ばかり留守番だなんて悔しい

あの子も屯所に残った事が救いかな。その理由が、僕にあるって最近知ったばかり

僕は面白くて飽きないから、嫌いじゃない。というか、嫌がらせなくらい悪戯してる

だからこそ、尚更あの子が残った理由に検討がつかない

やっぱりこういう時は、本人に聞いてみるべきかな

襖越しに気配を感じていたから、勢い良く襖を開けてみると予想通り彼女がそこに居た

『ごめんね、千鶴ちゃん。大丈夫だった?』
今の気配は、この子しか考えられなかった

『どうして入ってこないの?屯所内にほとんど誰もいないの知ってるでしょ』
『それは知ってますけど…
沖田さんが独り言をおっしゃっていたので…』

…そういうこと

『つまり、入りづらかったってことだね。』

一応、この子なりに遠慮したんだろう

『ありがとう。でも聞かれて困ることを僕は口に出さないよ』
『そう、ですよね』

そう言う君はホッとしたように安堵の表情を見せる

『ねぇ、なんで屯所に残ったの…?』
『どうしてですか?』

千鶴ちゃんは、気まずそうに聞き返してきた

『うーん、他の隊士から聞いた話なんだけど気になっちゃって』

………………

『隊士が言うには、千鶴ちゃんが残った理由が【僕】にあるんだってさ』

独り言を聞いてたなら、分かるでしょ?

ん?なんでだろう
千鶴ちゃんの顔がだんだん紅くなってる

『僕はその理由とやらが知りたいんだけど』

なんだか、意地悪したくなってきちゃった

『もちろん、教えてくれるね?』

笑顔で頼むと君は少しずつ後ずさっていく

『おっ沖田さん』
『なぁに?』
『笑顔が怖いです』
『気のせいだよ、気のせい』

それでも後退し続ける君

『だから怖いですって!お願いですから、笑顔で寄らないでください!!』

ホント意地悪しがいがある

そんなこと言われたら…ますます止めたくなくなる。だってその方が面白くなるでしょ?

『だから怖くないったら。逃げなくたっていいじゃないの』

トンッ

!!!!

彼女は怯えた顔で僕を見てる

もう後ろには壁しかない
だから逃げられない

『もう逃げられないね』

そう耳元で呟いたら、ますます絶望的みたいな表情になった

『どうしてほしい?』
『どうもしてほしくありません!!』

ギュッと瞳を閉じちゃって、本当に反応が女の子らしい
次はどんな表情を見せるかな

『じゃあさ、一緒にひなたぼっこしない?』
『……は?』

なにを驚いてるんだろう
僕が君に怖いことでもすると思ったのかな

『だから、ひ・な・た・ぼ・っ・こ』
『えっ…と、身体は大丈夫なんですか?』
『うん』
『…私が残った理由、沖田さんは聞きたがってましたよね』
『うん、すっごく気になる。』

何かを決意したかのように僕を見る

『残った理由は…沖田さんと一緒に過ごしたかったから、です』

いつもは恥ずかしがってるけどやっぱり君は素直で可愛い…

『調子が悪いなら…少しでも側にいたいと、思ってしまったんです//』
同情は嫌いだけど、君が可愛いことを言ってくれたから許してあげるよ
『なぁんだ、残念。君は過保護っぷりを発揮する?』
『…発揮しませんから。ひなたぼっこにはお付き合いしますよ』

「少しでも側にいたい…」なんて、嬉しすぎる

『ねぇ、僕にして欲しいことある?』
『急にどうしてですか?』

どうしてってさ

『千鶴ちゃんのおかげで、【元気になれたから】そのお礼に、とかじゃ駄目かな?』

君と一緒に過ごしてるとね、
白黒の世界が彩られていくんだ
剣である僕が役目を果たせなくても…【君がいるから】楽しいと思えるんだよ

『なにかして欲しいこと…』

他の幹部が見たら、いろいろ言うだろうな。僕がいつも以上に楽しそうとか

『決まった?』
『えっと、一応決まりました』

君のお願いなら、なんだってしてあげる

『じゃあ、僕に言ってごらん』

瞳を一瞬反らしてからはっきりと告げられる

『…沖田さんに、もっと心から微笑って欲しいです』

………は?

『…それって君は嬉しいのかな。結局僕が君に何もしてあげてないよね』

それじゃあ君に、何もお礼してないじゃない

『それだけで、私は十分です。』
『本当にそうなの?』
『…沖田さんの微笑ってる姿が見られるだけで、私はとても嬉しいですから』
『欲がないっていうか…純粋だね』
『そうでしょうか…私はこれでも欲張りです』

どこが?

『それさ、本気で思ってるの?』
『思ってます。だって欲張りでしょう?』

僕はそう思わないけど

『他の方々は忙しなく働いてるのに、私はまだ働けるのに。【医術が出来る事】を言い訳にして。好きな人の隣で静かに過ごしているだけですから』

不可抗力でしょ。経験はともかく、君以外にいなかったんだからさ

『それはっ』
『沖田さん、焦りすぎですよ』

楽しそうに、幸せそうに彼女は微笑んでいる

『笑わないでよ、恥ずかしい』

君の事になるとすぐ顔に出てしまう

『君はそれで嬉しい?無理してない?』
『無理なんかじゃありません。むしろ、嬉しすぎるくらいです』
『いつまで一緒に過ごせるか分からない僕なのに?』
僕はいつ消えても可笑しくない存在なのに

『私は【沖田さん】だから…ほんの少しでも、時間を共にしたいんです』

そんな哀しそうな顔しないで

小さな君の存在を感じながら、自分の身体を恨めしく思う

『ごめんね。きっと君が一番辛いと感じてるのに』

僕が不治の病なんかを患ったせい

『謝らないでください。隣で過ごせるだけでも…私は幸せです』

寄り添いながら、僕の指に千鶴ちゃんが指を絡める

『千鶴ちゃんは、優しいね』
『私は我が儘なだけです。別れの時までは、隣にいさせてください』
『もちろん、君にしか僕の隣はあげない』

クスクスッ

『だからさ、君の時間を僕に頂戴』

我が儘なのはお互い様、君も僕も大好きな相手の幸せを願ってる

ひなたぼっこ、なんて言い訳をして
僕は君の隣で安らぎたかっただけだから







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