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逢いたい《斉藤

仕事を終わらせて、通りすぎる廊下。僅かに青が覗く曇り空を眺めている。

眺めながら、思い浮かべていたのは想い人である雪村の事。

少し離れていただけなのに、今まで感じたことのない気持ちに戸惑うばかり。

雨で庭の草木に雨粒が滴って、雫がゆっくりと小さな水溜まりに落ちていく。その様子を俺はじっと見つめていた。

…………………

静かにこちらに来る気配がした。何も言わず静かに、ただ様子を《当の本人》が見ている。
『…雪村か』
『…あの、どうかしましたか?

ずっと空を眺めていましたけど』
『少し考え事を、な』

考え事というよりは、雪村に【逢いたい】と思っただけなんだが…

『斎藤さんが考え事ですか…

屯所で何か問題がありました?』
『いや、特に問題はなかった』
『じゃあ具合が悪いんですか?』

やはり、気づくはずない、か

『…そういう訳ではないんだ』

なんと言えばいいのだろうか。小さな欲ではある…でも口にするのはらしくない。

『雪村、俺が何を言っても笑わないでくれ』
『斎藤さんがせっかく話してくださるのに笑いませんよ。

でも、面白いことなんですか?』

面白い…のか?

むしろつまらない…おそらく…

『面白くはないはずだが』
『斎藤さんと話すのは好きですし、気にせず話してください!』

気のせいだろうか、雪村の瞳が幼子のように輝いてる様に見える。

『その、だな…』

改めて口に出すと、恥ずかしさが増してきた。

『いつもおまえには、何かと手伝ってもらっているんだが…』
『私は手伝いしか出来ませんし、何か気に障りました?』
『そ、そうじゃなくて、だな。』

やっぱり言わない方が…でも彼女はじっと待っている。

『いつも雪村は他の幹部が一緒だっただろう?』
『斎藤さん?』
『たまには雪村と…二人で逢いたい、と考えていただけだ』
『えっ……』

同時に顔を背ける。次からどんな顔をすればいいんだろうか。まともに雪村の顔を見ることが出来ないかもな。

『あの、斎藤さん。こちらを向いてください』
『…今は断る』

『どうしてもですか』
『どうしても、だ』

反対側を向いていたから、対処が出来なかった。

ぎゅっ

後ろから抱きしめる雪村。不意で止めることが出来ずに、腕が動かなかった。

『じゃあ、私が近くに行きます』
『どうしてそうなるんだ!その、離してくれないか』
『斎藤さんがこちらを向かないから、いけないんですよ』
『…いけなくはない、はずだが』

なぜ俺の背後で、首を傾げるように言うんだ。

『私を見てくださらないから、いけないんです!』

そんな、むちゃくちゃ過ぎる。

『斎藤さんが逢いたいと思ってくださったことが嬉しいです…

私も逢いたかったです。』
『…そうなのか』
『はい』

俺と彼女は同じことを考えていたのか。恥ずかしがることもなかったな。

ん?

でも好いた相手なら、恥ずかしいのも当然な気が…クスクスッ

『斎藤さん、どうかしましたか?
一人で納得したり、しなかったりって顔をしてますよ』

彼女に笑いながら、そう言われてしまい、さらに恥ずかしさが増す

『いや、なんでもない』
『微かに顔が紅いですよ』

尚も微笑み続ける雪村
実は分かっていて聞いてるんじゃないか!…と言いたくなる

『…気にするな』

逢いたい…お互いにそう想っていただけ。心を満たすには十分だ。

ボソッ

『斎藤さん、可愛いです』
『…聞こえているぞ』
『ごめんなさい』

彼女の笑い声も聴いていると、自分まで嬉しくなってくる。つかの間の平和、幸せだとしても…

『また逢いたいな…千鶴と二人だけで』
『そうですね。…一さんと逢いたいです』

欲張りだな。同じ場所にいるのに。

けれど戦になれば、もう逢えないかもしれない。

だから、平穏な時間のうちは願うだろう。







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