新Dust | ナノ












 
Trick or Treat

鎮まらない街、池袋。毎日のように騒がしい場所だ。けれど、今日はいつも以上に活気に満ちている。

『なんでこんなに騒げるかな?』

それはもう耳障りなくらいだ。ハロウィンだからって、はしゃぎすぎだよ。

正直こういうイベントに以前は全く興味がなかった。今はシズちゃんがいるから、それなりに興味が湧いてるけれど…

今日はそのイベントを愉しむ為に、池袋に来たようなもの。

幼少の頃から体質と性格が災いして、シズちゃんはイベントに縁がなかったみたい。もしかしたら、人生初のハロウィンになるのかな。

内心で愉しみ過ぎて浮ついてるのを隠しながら、アパートの扉を開いた。

『シズちゃん、遊びに来たよ』
『ん?あ゛ぁ、なんでてめぇがいんだよ』

いつも通り、俺を見た瞬間に眉間に皺を寄せる。

散らかる部屋で横にはコンビニの袋。相変わらずいつものバーテン服姿で、サングラスと蝶ネクタイは外してた。

『あのさ、ソレじゃ可愛いだけだよ』

外してた…だけなら何ともないんだけど、プリン片手にスプーンを加えてて迫力に欠ける。

全く無自覚なんだからさ。まぁ、彼が自分の事に疎いのは前からだから仕方ないんだけどね。他人が見てたら、八つ裂きにしちゃいそうだなぁ…なんて。

好きなモノは自分だけのモノにしたいでしょ?

それは独占欲という感情の現れだって俺は知ってる。誰にも見せた事がないモノ…俺しか知らない表情に嬉しさが増す。

『意味分かんねぇ。いいからてめぇは早く帰れ』
『つれないねー。せっかくハロウィンだから愉しみに来たのに』

もっとも参加するなんて、これっぽっちも思ってないけどね。

『さっさと帰れ!!

今は臨也の相手なんかしたくねぇんだよ!』
『プリンは食べ終わったんだから暇でしょ?』
『…関係ねえだろ』

どうやら図星みたい。仕事を含めても、あまり人付き合いがないんだから当たり前だろう。

『シズちゃん、Trick or Treat!』
『…は?』

まさか、知らないなんて言わないよね?

『ハロウィンなんだから、お決まりの言葉だろう?』

微笑を浮かべながら、相手の様子を見てみる。
『…臨也にやるもんなんてねえよ』
『じゃあ、悪戯決定。拒否権はないよ』

チュッ

いい終えるなり、唇を啄んだ。
『な、な、なにすんだ!!』
『悪戯?だってシズちゃん、お菓子くれないんだもん』

そう言って今度は深く口づける。

『ん…んっ、は、なせ…よ!』
『んっ…と、危ないなぁ』

勢いよく動かされた腕をギリギリでかわす。

『臨也くんよぉ、今度こそ殺してやるから逃げんじゃねえぞ!』
『選択したのシズちゃんなんだから怒らないでよ!』

お菓子か悪戯か、

選択肢はあったんだから。

『だからって『バイバイ、シズちゃん。愉しいハロウィンをありがとう』
『臨也!!…』

逃げることに夢中で届かなかった呟き。

チッ

『…なんで俺まで楽しくなってんだよ…』

そんな事など気づきもせず、走って駅に着く頃には、頭の中で映像をリピートしてる。

クスクスッ

『さっきの表情は最高だった』

キスした瞬間、耳まで真っ赤に染めて突き飛ばせばいいものを、彼は抵抗をすぐに止めた。

『これは期待しちゃっていいのかな』

口に残る甘いプリン味を感じてほくそ笑みながら、己の仕事場へ戻る。

しばらくは仕事がはかどりそうだ。もう一人の彼を余所にそんな事を妄想していた。
【Trick or treat】

年に一度のハロウィンで、悪戯をきっかけに得た彼の表情

大切な記憶がまた一つ積み重なった日







back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -