涙が伝う頬に口づけを
陽が沈みかけ影が消えゆく。ほくそ笑みながらただ見つめてる。
…………
日常茶飯事な喧嘩もしている。けれど隣で、側で過ごすのも毎日。戦争じみた喧嘩をしているのに、矛盾した穏やかな時間が在る。
お互いに何も告げない。ただ一緒に居るだけだ。
友達としてか、それとも恋人としてなのか。ひどく曖昧な日常を送っている。
だからこんな事を思ってしまったんだ。
‐好き‐
その一言で何か変わるのだろうか。
きっと変化した未来を恐れている。人間関係なんて一瞬で崩れるものだと解っているから。後悔はしたくないけど、失うのも怖いなんて臆病としか言えない。
これでも覚悟して言ったんだよね。
『好きだよ』
『な、』
君は見開いた瞳を透明な膜が覆って身体を震わせてる。
『好きなんだ、シズちゃんが。』
『…言う相手、間違ってねえ?』
やっぱり信じてくれない。というか泣かれてるんですけど
『シズちゃんってば酷いなー。
泣くほど嫌だったの?』
告白して泣かれるとか、むしろ俺が泣きたい。
『嫌じゃ、ねえ…けどよ。俺は男だぞ?』
『誰が見たってシズちゃんは男だよね。』
答えてあげたのに今だ泣き止む気配を見せない。嫌じゃないなら泣き止んで欲しいんだけどな。
『信じ、らんねえ、し』
『まぁ、確かに信じられないのも解るけどね。…シズちゃんは俺の事好き?嫌い?』
『た…たぶん……好、き。』
それと同時に真っ赤になって、恥ずかしがりながら俯いてしまう。
思わず抱き寄せてみれば、自分とは違う薫りを感じてさらに腕に力を強めた。
『ヤバいよ!可愛いすぎるんだけど!!』
『は、離せよ!!』
いつもなら俺なんかが力で勝てるはずないのに、今はあのシズちゃんが腕の中で必死にもがいている。
『か、わいいとか、ありえねえ』
結局逃げることは諦め、顔を上着に押しつけてる。それは流れる雫を吸い、黒がさらに色濃くなった。
『シズちゃんは可愛いよ。少なくとも俺にとってはね』
そっと涙が伝う頬にキスをした
『ん』
擽ったそうに瞳を細め、小さく微笑んでる。
『やっと泣き止んだ』
『…馬鹿にすんな』
安心したように身を預けて笑みを浮かべてくれた。
『シズちゃん大好き!』
迷わず唇へとキスを贈る。