新Dust | ナノ












 
寒さが誘う想い出に

少しでも寒さを紛らせようと帰りがけにコンビニに寄ってる

たくさんの種類からソレへと流れ作業のように手を伸ばしてそのまま会計を済ませた

視線の先には珍しく買った缶コーヒーが一つ

『……まずい』

かじかんだ手で握りながら口から出た白い息を見つめる

苦いだけのこの液体は何度飲んでも好きにはなれない
だがアイツは好んでよく飲んでいた気がする

高校時代に自販でいちご牛乳を買うつもりが臨也にコーヒーのボタンを押された事がある

『シズちゃんは甘いのしか飲まないからさ』

そう言いながらストローを挿して勝手に飲んでやがった
しかもわざとらしく微笑んでいる

『苦いのも飲んでみたら?』

臨也は自分が口をつけたソレを俺の口に押し付ける
まさかの行動に思考がついていかない

『アハハッ…顔真っ赤じゃん』
『今のがシズちゃんの初めてなんでしょ?』

最初から知っていましたという様子で言うから思わず掌で顔を覆ってしまう

どうせニヤついて見てる臨也を考えれば直接じゃないだけマシだと思える

案の定、掌を外せば目の前で笑いながらコーヒーを飲んでいる

『照れてるのって可愛い』

なんて言って立ち去っていく
すれ違う時に「ごちそうさま」と呟くのを忘れないで


…………………………………


あの瞬間に、また俺は初めてを奪われている

「臨也は恥ずかしくないのだろうか」

そう考えてまた恥ずかしくなる

『馬鹿みてえ』

なんでこんな物を買ってしまったのだろう
しかも過去とはいえ臨也を思い浮かべてしまった

自分ばかり奪われているという考えが生まれて単純に悔しくなる

『一つくらいアイツの初めてが欲し』
『アイツって俺のこと?』

背中越しに仄かな温もりを感じた

もちろん誰なのかは分かっていてる

思い出した場面があんな場面で隣には当事者である臨也がいたから身体が動かせない

そんな気持ちを認めたくなくて無理矢理にでも言葉を紡ぐ

『なんで、てめえが池袋にいるんだよ!』

振り向くのと同時に軽い動きで臨也は前へ回ってきた

『シズちゃんに会いに来ちゃった』
『今すぐ帰れ』
『無理!』
『は?意味わかんねえ』

即答した臨也は肩を揺らしていて、笑いながら「自覚なさすぎ」とかなんとか言ってる

『なに言ってんだ、お前』
『顔真っ赤』

今は早く立ち去りたいだけなのに臨也道を塞いでる

『さっきの「アイツ」って?初めてって何なのかな?』
『………てめえに教えるわけねえだろ』

どうせ見当がついてるくせに、わざわざ聞いてくるところが臨也らしい

『だってシズちゃんから直接聞きたいじゃん。やっぱり俺?』

コレはなんの嫌がらせなんだ
当な本人が言うからむかつく

『そんなの自分で考えろ!俺に聞くな!!』
『今日が特別だったり?』

確実に嫌がらせだ
いかにも愉しそうな顔でこっちを見てる
『高校の時に俺がシズちゃんにコーヒーをあげた日でしょ』
『…覚えてんのかよ』

記憶に残してるのは当たり前なのだろう
生業は情報屋なのだから

『だって、シズちゃんと間接キスしたって事だもん。』
『てめえには、どうってことないじゃねえか』

俺と違って、表面だけの人間関係は幅広いのだからそれなりに経験済みな気がする

『俺も初めてだったよ』

あの臨也が、初めてなのか?

『直接じゃなかったのが残念だけど』

肩を竦めてはいても一瞬で距離を縮めていた

『キス、しちゃえばいいよね』

呟いた直後に軽い感触が伝わってきた

それは臨也が乾いた唇を重ねた瞬間で

『ん……っ』

すぐに離れた臨也は茫然とただ見つめてる俺にまた笑う

そしてあの時と同じように、すれ違いでこう呟いた

『ごちそうさま』

踵を帰して歩く臨也に俺はいまだに動けない

一体、なんの為に来たんだ

わざわざ俺に会いに来たというのだろうか

唇に残った消えない感触に思考は阻まれた

それでも初めてを一つ奪えていた事実だけは変わらない






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