新スタスカ | ナノ












 
雨降る季節《蠍座

部活がやっと終わったらポツポツと雨が降り始めている

『念のために折りたたみ傘を持ってきて正解だったな』

とはいえ、部活の後に雨というのはあまり心地好くない

雨が降ること自体は嫌いなわけじゃない
雨は心を鎮めてくれるから

そんなことを考えていたら…
バタバタと足音が聴こえてきた

『お待たせ、宮地くん!』
『大丈夫だ、たいして待っていないから』

俺は夜久を待つ時間が好きだ
側へと駆けてくる姿は可愛らしい

『うわぁ、やっぱり雨降り始めてたんだね』
『あぁ、雲行きが怪しかったからな』

心底残念なようだ
夜久は肩をガックリと落としている

『仕方ないだろう、雨なのに弓道は無理だ』

帰る支度をしながらも、弓道場を名残惜しそうに見ている

『そういえば傘はどうしたんだ?』
『準備してて急いだら忘れてきちゃったの//』

クスクスッ

『らしいと言えばおまえらしいな』
『宮地くんってば、笑わなくてもいいでしょ!だから言いたくなかったのに』
『…っ、すまない。』

あまりにも、夜久が幼く見えてしまったから

『もういいから//』


夜久の顔がやけに紅くなってる

…って、魅入ってる時じゃない!

『どうやって帰るつもりだ?
風邪を引くから、濡れるわけにもいかないだろう?』

彼女は少し考え込んで
『もう少し雨宿りしてみる。
止まなかったら、走って帰るから!!』
『むっ…そのまま帰ったら濡れる。風邪を引くぞ』
『だって、帰れない…』

だから、俺が傘を持ってるって言ったじゃないか

『俺の傘を使えばいいだろう?』
『そっそんなのダメだよ!』

間違ったことは言ってないはずなんだが…

夜久は俺を心配しているようだ

『俺は別に構わないぞ』
『私がダメだと思うからダメ!』

…………
じゃあ、どうすればいいんだ
雨は全く止む気配がみせない

帰ったら一人になるじゃないか
そんなの認めるわけがない
不逞な輩が多いのに、一人で置いていくなんてありえない

『夜久、一緒に帰るぞ』
『えっ』
『俺の傘に、一緒に入れば問題ないだろ』

それが1番安心だ
俺が寮まで送るだけでいい

『私は構わないけど、宮地くんの迷惑じゃない?』
『気にするな、迷惑じゃないから誘ってるんだ』

迷惑なんて思うわけない
『宮地くんがいいなら…お言葉に甘えちゃおうかな』
『あぁ、濡れないように離れるなよ』

何より一緒に帰れるなんて…すごく嬉しい
1番おまえと逢っていたことになるから

『でも、なんかいいよね!
同じ傘に一緒に入るの』

む…よく分からないんだが

『相合い傘でしょう?
私、憧れてたんだ〜』

…………

さっきまでは平気だったのに、なんだか恥ずかしいな//

クスクスッ

『顔が紅いよ?』
『あっ紅くなんてなってない!』
『宮地くんってば、可愛い』
『なっ、可愛いのは夜久…じゃなくて!こっちを見ないでくれ』

つい口が滑ってしまう
相合い傘…なんて全然気にもしなかった

『宮地くん?』

ただ夜久一人が帰れないと困る気がして…
俺が誰よりも不安になる訳なんだが
『む、なんだ…』

でも今は違う
同じ傘の下でこんなにも二人が近い

『もう寮の前に着いたけど』
『あっ、あぁ!』

いつの間にか、時間が過ぎていた

『宮地くん、今日は送ってくれてありがとう!』

俺が彼女を送りたかっただけ
別れる時が来たら、とても帰るのが惜しくなる

『っそうだ!!甘い物が大好きだったよね?』

なにかを取り出そうと鞄に手を入れる夜久

『まぁ、好きだな。急にどう…』
『宮地くん、口開けて!』

反射的に口を開けてしまった

『んっ…甘い…』

口に入れられたのは
一口サイズのキャラメル
『『寮まで送ってくれたお礼!
コレで許してね』
『それは構わないが…まだ余ってるか…?』

お礼なんて、気にしないのに

『えっ…あと1個だけあるけど』
『そうか、じゃあコレをもらうぞ。口を開けてくれ』

ひょいと箱から取り出したキャラメルを夜久の口に入れる

『んっ…』
『美味しいか?』

聞いてみたら、頬に手を当てて素直に感想を述べてくれる

『…美味しい…これじゃあ、お返しにならないよ?』

紅みのある顔で口を抑えながら、俺を見つめている

『いいんだ、コレがおまえからのお返し』
『?どこがお返しなの??』

本気で気づかないんだな…

『可愛らしい顔が見れたから十分だ』
『宮地くんは、そんなことでいいの?』
『…少なくとも、俺はな』

好きな相手が微笑んでくれるならそれだけで十分すぎる幸せだ

『なら、もっと早く言ってくれればいいのに!』

若干文句を言いながらも、夜久は微笑んでいた

『宮地くんのお願いなら、私は笑ってあげる!』

俺の願いならって
恥ずかしいことをサラリと言ってないか

クスクスッ

『だからね、宮地くんも笑ってほしいな』

まさか彼女から【お願い】されるなんて

『むっ…努力はする』
『ありがとう、宮地くん』
『お互い様にだろう。そろそろ時間も遅いから帰るぞ』

俺も急いで寮に戻らなくてはいけない

『そうだね、宮地くんと話せてとっても楽しかった!別れるのが少し残念』
『それは素直に嬉しく思うが仕方ないだろう。』

俺ももっと一緒に過ごしたいが無理をさせたくはないんだ

『確かにそうだけど…』
『またいつでも学校で俺とは会えるそれまで我慢だ』
『…はぁい』

声のトーンが小さくなる

『別れ際にそんな顔するな、…笑った顔を見て帰りたいんだ』

明日までの辛抱だから
大好きなおまえの微笑んだ表情を記憶に焼き付けたい

よかった、元気になれたみたいだ

『それじゃあな、夜久。』

この瞬間くらい俺も微笑んでいられるだろうか

気のせい…ではないよな
夜久の顔がまた紅くなってる
理由を考えながら足を進めていく

『…宮地くん!!』

どうしたのかと振り返ってみる

『最後に笑ってくれてありがとう!宮地くんの笑った顔、とても綺麗だったよ〜!』

それだけを言い終わると

『おまっ…』
『それだけ言いたかったの!また明日ね、宮地くん。おやすみ』

俺が返事をするより早く、寮に入ってしまう
さっきまで隣にいた存在感

最後の最後で、またもや俺の心を射止めていった

こんな所で負けてはいられない
先に想いを伝えるのは俺でいたい

相合い傘…俺はおまえと…
今度は恋人として隣を歩きたい








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