新スタスカ | ナノ












 
王子の目覚め《天秤座

ふと、保健室から空を見上げればどこまでも青く蒼く拡がる空。

昨日はあんなに悪天候だったというのに…

春の芽吹の時期も過ぎて梅雨に移り変わる。

昨日はたまたま雨と風で天気は荒れていたが、

『眠くなってきたな』

空気がとても暖かく感じるからか、いつも以上に睡魔が誘いかける。

まぁ、来るとしたら…夜久くらいだしな。

放課後になると保健係の彼女が「星月先生がいつも片付けないからです!」とか言って、度々掃除をしにやってくる。

掃除はしなくても構わないんだが、少しばかり嬉しく思う。

一度は「無理だ」と断った俺の事を想い続けてくれた。
晴れて恋人同士になったけれど…

まだ隠し通さなければいけない

『後1年は我慢しないとな…』

本当は恋人らしい事も、たくさんしてあげたい。

でも、それはおまえの為にはならない。言い聞かせながら奥へ進む。

そこには日光を受けて、ふかふかとしたベッドがある。

『ん、やっぱり眠るならココが最適だな』

夜久が来るまで、まだ時間はある。

それまでは…おやすみ……

静かに瞳を閉じて、そこで俺の意識は途切れた。

主人公side

生徒会の用事を済ませてから、急いで保健室に向かう。もちろん星月先生が散らかしたままの物を整理する為に。

ガラガラッ

『星月先生?夜久ですけど…』

シーン

まさか星月先生、いないのかな。

日常的にずっと一緒にいる事はまだ厳しい。

だから、【掃除をする】という建前で星月先生に逢えるこの時間を楽しみにしていた。

『せっかく急いで仕事を終わらせたのに』

先生はどこにいるんだろう。

ある程度パターンを考えながら、星月先生がいつも使うベッドを見に行く。

『星月先生?起きてますか?』

スースー

やはりいつも通りみたい。保健室の主は気持ち良さそうに眠りについている。

『私なんかより、ずっと綺麗…』

眠っている彼の頬に触れてみる
それは滑らかな触り心地で憧れてしまうくらい。女の私でも羨ましいと思いますよ、星月先生。

『…ん……』
『先生、早く起きてください』

まだ眠りからは覚めていないみたい。

『先生、眠りすぎですよ!』

ふぁぁ…
盛大な欠伸と共にその人は、瞳を開いた。

『ん〜っ…なんだ、夜久か…』
『おはようございます、星月先生。』
『おはよう…そしておやすみ』

スースー

『…………』

すでに就寝とは、さすがです。
『星月先生、意地でも寝る気ですね』

話したそばから眠るなんて…先生くらいしか、出来ませんよ。

『早く起きてください、せっかく二人だけでいられるのに』

とは言いつつ、起こさないように注意する。その瞳に私が映らないのは、淋しいです。

そっと手を伸ばして翡翠色の髪を一房、指に絡めとる。

『星月先生…目を覚ましてください』

そのまま眠る彼の唇に自らのそれを重ねた。

チュッ

誰もいないからきっと大丈夫。いつもは恥ずかしくて出来ないけれど、今だけは…

『まさか、私のきっ』

グイッ

‐私のキスでなんて起きないよね‐
最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。

『おまえ、ずいぶん大胆だな』

それはいきなりベッドへ引きずり込まれたから。

『ちょっ…せっ先生!!起きていたんですか!?』
『あぁ、夜久が一度起こしてからずっと、な』

私を腕の中へ閉じ込めながら述べていく。

恥ずかしい…さっきから起きてたんだ。ギュッ顔を見られたくなくて、胸に埋めた。

『じゃあ、なんで早く起きてくれなかったんですか…』
『だってなぁ…寝てたら何かするかなと思って』

先生の寝顔に夢中になって、寝たフリに気づかなかった。

『百面相してたぞ、夜久』

私を覗き込みながら、楽しそうに告げる。さっきの事を振り返ると、今でも頭がパンクしそう愛いところがありました』
『俺は可愛くなくていい』

クスクスッ

『じゃあ、そういうことにしておきます』

それはいつもの放課後。

恋人と過ごした秘密の時間。

お伽話のようなキスをした

-眠る王子、目覚めは甘い口づけで-




『案の定、いろいろとしてくれたな』

恥ずかしくてたぶん真っ赤になってる。

『そんな可愛い表情するな』

なんで、あんな事しちゃったんだろう。

『俺は嬉しかったんだから、ここは素直に喜ぶところだろう』
『…嬉しかったんですか…?』
『そりゃあ嬉しかったさ。』

私がそうしたみたいに髪を絡ませて唇を寄せていた

『髪を梳いてくれたり、キスしてくれたり、な』

眠ってると思ったから、油断していただけ。

相手が【星月先生】だから

『…思い出すだけで恥ずかしいです』
『別にいいじゃないか』

チュッ

『普段は俺からしかしないだろう?』

さりげなく唇を重ねられた

…いつも私からなんて、ただでさえ恥ずかしいのに。

クスクスッ

『反応一つ一つが可愛らしいな』

笑いながら言われても、説得力ないですよ

『…先生のイジワル…』
『悪かったって。可愛かったんだから仕方ないだろ?』
『仕方なくないです!』
『夜久は可愛い過ぎる。悪い虫がつきそうだ』

悪い虫?

『悪い虫って、どんな虫ですか?』

…………

今って沈黙するところ?

『いや…気にしないでくれ』
『余計に気になるんですけど』
『いずれ分かるから、今は分からなくていい』

…………

『それはさておき、もうキスしてくれないのか?』

キス!?

フリとはいえ、さっきは眠っていたからしたんです!

『俺はまだ、ベッドから起き上がってないぞ』

先生は駄々をこねる子供ですか…

『ちゃんと起きるから、おまえからキスしてくれ』

……は?

『なんでそうなるんですか!』
『お伽話みたいな雰囲気があるだろう?』

例えるならどんなお伽話かな

……………

『お姫様のキスで目覚める王子も有りだと思ってな』

発想力ありずぎますよ

『私がお姫様で星月先生が王子様?』
『そうだ。だから夜久は、俺をキスで起こさなゃな』

どんな理屈ですか、それ。めちゃくちゃな要求に鼓動が速くなる

徐々に瞳を閉じながら、先生は待っている

『ぜっ、絶対に瞳を開けないでくださいよ!』

…………

これは納得って思っていいんだよね。勇気を振り絞って、そっと顔を寄せていく

『星月先生、やっぱり綺麗ですね』

チュッ

私が唇を重ねたのは、ほんの一瞬。恥ずかしさで、顔が紅くなるのを感じてすぐに離した。すると、まるで本当に眠っていたかのように、瞳がゆっくりと開かれた

『【綺麗】は余計だぞ。愛しのお姫さま』
『お姫さまって恥ずかしいですから!
それに、私は本当の事を言っただけです』
『…分かったよ。』

渋々引き下がったような表情で、先生は起き上がった

『目覚めのキスをありがとう、月子姫』
『その設定まだ続けるんですか?』
『せっかくだからな、おまえも【王子様】って言ってもいいんだぞ?』

微笑みながら紫陽花色の瞳で見つめてくる

『いつだって、貴方は私の【王子さま】ですよ。星月先生』

あぁ、恥ずかしい…。

サラッとそんな風に言える先生が羨ましいです

『ワガママに付き合ってくれてありがとな、夜久』

恋人なんですから、そんな事気にしなくていいのに

『どういたしまして。でも例えが子供っぽかったですね』
『そうか?』

もうお伽話なんて読みませんから

『そうです。先生にも意外と可愛いところがありました』
『俺は可愛くなくていい』

クスクスッ

『じゃあ、そういうことにしておきます』

それはいつもの放課後。

恋人と過ごした秘密の時間。

お伽話のようなキスをした

-眠る王子、目覚めは甘い口づけで-








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