散歩道《天秤座
心地好い風が吹いてる。さらさらと髪が靡いていく。
隣に軽く弾むように歩く夜久はニコニコしている。会った時からずっとこの調子だ。
滅多にできないデートだから、俺以上にとても嬉しそうだ。
と、言っても少し離れた並木道を散歩しているだけ。
『夜久は、そんなに楽しいのか?』
『楽しいですよ!
琥太郎さんは?』
本当にそうなのだろうか。彼女のことだから遠慮しているような気がする。
『いや、だって…散歩してるだけ、だぞ…』
『そうですね』
淋しそうに苦笑する夜久。別に信じたくない訳ではないんだ。ただ、俺が楽しいだけでは悲しいから
『おまえくらいの女子高生なら、買い物とか甘味を食べるとかの方が…楽しいんじゃないか?』
『うーん、確かにそれも楽しいと思いますけど…
私にはあまり関係ないので。』
関係、ない?
『そういうもの、か?』
いまいち分からない。恋愛にただでさえ臆病な俺は、【分からない】ことが怖い。だからこそ、共有できることは一緒にしてみたいと思ってしまう。
ギュッ
顔に出ていたらしく、手を優しく繋がれる。
『そういうものですよ。』
小さく微笑みながら歩調を合わせて道を進む。
クスクスッ
『何を考えているかは分かりませんけど、私は貴方の側で過ごせればいいんです!』
『……は?』
自分と比べて、だいぶ幼いはずの恋人に力説された。
『だから、買い物でも甘味を食べに行くことでも…
琥太郎さんが一緒なら、なんでも楽しく思えるんです!』
そういうことか。答えは簡単なことだったんだな。
今まで悩んでいた自分が、バカらしいじゃないか。
あー、笑えてきた。
『…夜久、俺のことが本当に好きなんだな』
『もちろん、琥太郎さんが大好きです!』
ただ、道を歩くだけ。けれど大切な人と、夜久と一緒に一歩一歩を進んでいる。自覚すればするほど、終わるのが勿体ない。
ぼんやりと考えていた俺を、やはり微笑み続ける彼女。
『琥太郎さんも私のこと、大好きですよね?』
どんな風に答えるのか。お互いに分かりきった質問。だって、そんなの決まってる。
『俺はおまえが大好きだよ』
暗闇の淵から救ってくれた明るいおまえが。なんとなく繋いだ手を引き寄せて、手の甲にキスをする。
『なっ……!?』
驚いて顔を真っ赤に俯いてしまった夜久。
…それはもう可愛い…
そっと屈んで耳元で呟く
『愛してる、月子』
さっきよりも、さらに真っ赤になった恋人がそこにいた。
『熟れた柘榴みたいに真っ赤だな』
『…っ、琥太郎さんのバカ』
穏やかな風がそよぐ、近くの散歩道。1組の恋人は幸せを分かち合うのだった。