君に恋して
恋愛感情を抱いてる。
自覚してしまえば、もう引き返すことは出来ない。マイに恋する前には戻れないんだ。
「あ、トーマだ!」
「今日もマイは元気がいいな」
「えへへっ」
いつもの癖で頭を撫でてやると、おまえは気持ち良さそうに瞳を細めていた。
まるで動物のように身を任せてくれる事が嬉しくて、俺まで口元を緩ませていたのがシンは気に入らなかったみたいだ。
「いつもトーマはマイを甘やかしすぎ」
「シンが私に冷たいだけでしょ」
「俺はどっちにも優しいつもりだよ」
1番年長ということもあって、甘やかしてばかりの場面も多い。
最初は分け隔てなく優しく接していたつもり。でも、シンが嫌がるようになってからはマイに対してばかりだったかもしれない。
だからなのか、隣にいてくれるのが当たり前になっていた。
手の届く場所で笑って、俺の名前を呼んでくれれば幸せだから。
いつ気持ちが変わっていたかなんて分からない。気づけばマイを幼なじみとして見れない日常。
友達と分かっていても、嫉妬してしまう自分が情けない。
「俺はもう帰るけど、おまえはまだ残る?」
「うーん、どうしようかな」
笑顔を向ける先が自分じゃない。それだけでどこかが痛む。どこも悪くないのに、悲鳴をあげるなにかがあるんだ。
「俺はどっちでも構わないから、マイが選んでいいよ」
友達か、幼なじみか。
どちらを選ぶかなんて、平気で試すような真似もした。
「やっぱりトーマと一緒に帰るね!」
じゃあ、また明日ね。
友達に別れを告げて俺が待っていた扉の側へと足を進めていた。
「じゃあ帰ろうか」
「そうだね」
スキップでも始めそうなくらい、マイは楽しそうに一歩を踏む。きっと、楽しかった一日を振り返ってるんだろう。
その理由は俺じゃなくても、たぶん優越感に浸ってる。今は天秤にかけられて、やっと重さが分かったような気分。
明白な答えをあえて問うなんて我ながら笑える。
長年で耐性がついたおかげか、顔に出す程ではない。それでもおまえが隣で笑顔を浮かべている事は何より嬉しいんだよな。
「一緒にケーキでも食べに行くか」
「トーマと二人で?」
「当然だろ、誘ったのは俺なんだから」
今の関係を壊す事が怖くて、気持ちはまだ伝えていない。
残念ながら恋人ではないけど、勝手にデート気分になって心の中を舞い上がらせる。
「私はガトーショコラね」
「分かってるよ、マイのお気に入りでしょ」
いつか、この感情に気づいてしまうまで。
「トーマなら予想がつくと思った」
「それは褒め言葉だよな?」
「ふふっ、そうだよ」
おまえが誰を好きになっても、止められはしないけど。
「ありがとな」
「ケーキはシフォンも追加ね!」
「はいはい」
その時はほんの少しでもいい。
俺を恋愛対象として見てくれる事を、密かに願ってるよ。
君に恋して、(愛しいと気付いたその日から戻れない日々が始まった)
title by 空想アリア