行き先知らずの恋心
掌の物体を見つめて、つい溜息をついてしまう。
「はぁ…」
…こういうモノをあげれば君は喜んでくれるのだろうか。
きっかけはイッキュウに言われた事。彼女に合うような…自分が贈ったものをつけた姿を想像しながら選んだストラップ。
「数学と比べて分からない事だらけだな」
得意な数学と違い、一つの答えがない"恋愛"は難しい。
「マイが喜んでくれればいいんだが…」
手にした携帯で連絡は送ってある。渡したい物があるから、会えないだろうか、と。それから何通かやりとりをして、彼女を自宅に招いた。
「おじゃまします」
「今日も両親はいないから、適当にしてくれて構わない」
「分かりました」
ソファーに座りながら辺りを見回す様子が、小動物のようで愛らしく思う。
「ケントさんの部屋はいつも綺麗ですよね」
「君が言うならそうなのだろう…マイは違うのか?」
「学会の資料とかも多いのに、整理されてて几帳面だなって」
「まぁ、後で自分が困るからな」
クッションを膝の上で遊ばせて、子供のように笑顔を浮かべている。
「マイ」
「どうかしましたか?」
「今日呼んだ理由なんだが…」
大きな瞳を瞬かせて、何かを期待したかのようにこちらを見ている。
「よかったら、受けとってくれないだろうか」
「ケントさんからのプレゼントですね!」
「気に入ってくれたら幸いだ」
小さな箱にラッピングを施してある。数少ない友人の意見を参考にしただけなのだが、初めてだらけで彼女が喜んでくれるか不安でもある。
「可愛いストラップですね!」
シンプルではあるがデザインされたシルバーのストラップに薔薇のモチーフが飾っている。
「一応、私とお揃いにしてあるんだ」
携帯に付けたストラップが小さく音を立てる。
「ふふっ」
「マイは気に入ってくれたか?」
「とても嬉しいです!ありがとうございます」
「それは良かった。君の好みに合うか不安だったんだ」
じっくり眺める姿に、不慣れだが選んだかいがあったと思う。喜ぶ顔が何よりも二人だけの特別なんだと実感する。
「シンプルなのにデザインが凝ってて、ケントさんらしいです」
「薔薇はマイの服装から、好きなのかと思って選んだ」
「選んでる姿が見てみたかったです」
「…それは遠慮しておくよ」
ただでさえ挙動不審か姿を見て、イッキュウに笑われたんだ。その場面を見られるなんて論外だ。恥ずかしいにも程がある。
「あれ…私のだけ……指輪」
「いつかで構わない。薬指に嵌めて欲しいんだ」
Love letter without address
(宛名のないラブレター)
title by たとえば僕が