新AMNESIA | ナノ












 傍らの重みを抱き締めて

−おかえりなさい−

家に連れてきたのは、ほんの限られた人だけ。

だから、特別だと思う子からその言葉を聞く事はなかった。もちろん数少ない友人は別として、だ。

ーただいまー

そう言っても、無機質な空間は何も返さない。

温もりの欠片もない淋しい場所。それが唯一、人目を気にせず過ごせる場所。かつてそんなものだった。

「コーヒー出来ましたよ」

「ありがとうマイ」

一緒に住むようになって、彼女が側にいることが当たり前になった。誰もが過ごすような穏やかな時間。

テーブルに置かれたマグカップから、白い湯気がゆらゆらと融けていく。

「冷めちゃいますよ?」

「今飲むから大丈夫だよ」

ソファーに二人並んで和やかな時間が流れていく。

瞳の力が効かない稀有な子。同時に僕を、ちゃんと僕として見てくれる大切な彼女。

昔の自分なら考えられなかった、今は毎日聴く言葉。

「ねぇ、マイ」

「何ですか?イッキさん」

「おかえりって、言ってくれないかな」

「おかえりなさいイッキさん」

「もっと…たくさん聴かせて」

「……おかえりなさい…」

繰り返し何度も聴く、誰かを迎える言葉が響く。

「今日はなんだか、子供みたいですね」

「僕は可愛くないよ?」

「いつもよりイッキさんは可愛いです」

彼女が優しく抱きしめてくれる。偶像ではなくて、本来の僕に暖かなソレを教える。

特別な人が出来て、誰かの側に帰る場所がある。帰りを待ってくれる人がいる事。

周りは普通だと思うかもしれない、些細な事が何より嬉しい。

「マイがいると…気持ちが……温かい」

「それはイッキさんも一緒です」

「そうかな?」

「私がそう言ってます!」

彼女が僕をじっと見上げて、自信持ってくださいと訴えるみたいに拳を握っている。

「イッキさんのおかげで、私は幸せです」

「ありがとう」


-君がいるから僕は幸せだよ-


title by 空想アリア





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