新AMNESIA | ナノ












 
花に愛が還るその日まで

まだ私には記憶が足りない。

シンが恋人で、彼から告白されたことは思い出せたのに。

肝心な記憶、私が記憶を失った時のものが戻らなかった。

「マイが本当に好きになるまで、待ってて」

‐俺がそう想わせてみせるから‐

あの時は出来なかったけど、一人で思い返してみたら涙が零れていた。

記憶がなくなっていた時でさえ、大切に守ろうとしていた彼。

「マイは俺の心配しなくていいから」

「でも、シンがいないと不安だよ」

「それは…解決してから言って」

どんな想いで隣にいてくれたんだろう。

私が持っていたはずの感情は、何も教えてくれない。

確かに好きだった。

それだけは真実なのに。

「シ…ン……」

カチャリとドアノブが回った音に、呟きは掻き消された。

「なんで、マイが一人で泣いてるわけ?」

会えただけでこんなにも嬉しい。シンが怪訝そうに見ているのに、涙が止まらない。

「…ふぇ、あ…っ……」

「…今度はどうしたんだよ」

自分が情けなくて、悲しいだけ。私なんかよりもシンの方が辛いのに、何も思い出せないことが悔しかった。

「何でもない、の」

「その顔で言っても無駄」

そっと触れた指が瞼をなぞる。

「マイが泣くところ、俺は見たくないんだけど」

「んっ…ごめん…ね」

お互いに近づいた距離。あと少しで唇が触れ合う、僅かな隙間。

「今のは謝らなくていいから」

拗ねたように言葉を紡ぐ彼に、小さく笑ってしまった。

「……シン?」

「落ち着いたの」

「手繋いでくれたら、落ち着く」

「それ…俺が苦手なの知ってて、マイは言うわけ?」

表情を歪めて私を見つめる様子は、珍しく幼さが残っていて。まだ彼が年下なんだなと思わせる。

「シンは私が恥ずかしくても、キスするでしょ?」

「……今度会ったら、俺が泣かせるから」

溜息をついて、彼から絡められた指は私の手を優しく包んでくれた。


title by 空想アリア





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