恋せよ、少年少女
冬が近づいて、呼吸する度に白い靄が浮かぶ。気温差がある時にしか現れないソレは、よりいっそう寒さを感じさせる。
「もっと暖かい格好にすればよかった…」
バイト帰りに公園を散歩していた。木々たちは落ち着いた色に囲まれ、子供たちは賑やかに駆けずりまわっている。すれ違い様にそよぐ風がひんやりと頬を撫でていく。
「さ、寒い」
「だから大丈夫なのかって、聞いただろ」
「シンの格好を見たら、平気かなって」
隣を歩くシンは厚着をしていなかった。いつものような格好にマフラーを巻いてるだけ。
「はぁ…」
白い吐息がふわりと空へ昇っていく。
「俺とマイは違うし、個人差を考えろよ」
「その格好で寒くないの?」
「大丈夫だから。手、貸して」
「いいけど…っ」
両手を差し出せば、シンはソレを口元まで持っていく。反射的にいきなり何をするつもりなの、と瞳を閉じてしまう。次の瞬間に感じたのは、じんわりとした暖かさだった。
「シン?」
両手で包むように私のソレがぎゅっと握られている。それだけでなく、白く染まる吐息で暖めてくれていたらしい。
「おまえの手、冷えすぎ」
「さっきから寒いって言ってるでしょ」
いつも私から握ろうとすれば逃げるのに、今日はまるで嘘のようだった。彼の吐息が触れる感覚だけでも熱くなりそう…
「マイは天気予報くらい確認して来い」
「たまたま忘れただけ…だもん」
「あっそ、」
身体の芯から冷えていると寒さで震える声は隠せない。わざわざ立ち止まってくれたシンの言うように、今回不注意だったのは私。
「こんな事で体調崩すなよ」
「平気だ……っくしゅ」
「やっぱり今のは訂正」
ムズムズと疼く喉が気になって口元を押さえていたら、問答無用に宣言されてしまった。
「その様子だと言うだけ無駄だし」
「大丈夫、だよ」
「おまえが倒れるなんてごめんだから」
素っ気ない感じなのに、言葉にはシンらしさが滲んでる…なんて思うのはそれだけ時間を過ごしたからだよね。
「悪化する前にメールして」
至近距離で見つめる瞳には嬉しそうな私が映っていたのに、彼の言葉にしどろもどろになってしまう。
普通に出迎えるなら話は別。いつも通りにお茶を出して勉強したり、雑談したりなら。でも看病を目的だと…いろいろと困るというか恥ずかしいよ。
「熱出したら、俺が看病するから平気」
「えっ、だ大丈夫だって…っくしゅん」
「おまえの家に行くから」
譲らないところは絶対に譲らない。はっきりとした意思に結局は私が負けるのがオチだった。
「マイは期待してれば?」
肩を落とす私にシンが言う。看病に何を期待するの?と言いたい気持ちは口の中でぐるぐると回る。言葉をつぐむしかないのは彼の笑みが別の意味を込めているようだったから。
title by 水葬