絡まるのは心か指先か
勢いのある風が辺りを駆け巡っている。光が射す暑い時間にはちょうどいい。
視線の先で木々が揺れて、花びらのように木の葉が舞う。
外を歩く人々の髪を空へと軽く踊らせてはそれらは去っていく。
「思ったより風がありますね」
「そうだね!風が吹いてると気持ちいいなー」
穏やかな涼しさは息抜きにちょうどいい。
歌う事や作詞をする事も伝えたい言葉がたくさんある。でもそのままでは伝えられず、まとまらないと前に進めない。だからこそ休息は必要だった。
「ちょっ、音也!」
そんな考えも気づいていない彼は、いきなり腕を掴んだかと思えば少しだけ走って立ち止まる。
「いきなり引っ張らないでくれませんか」
「あははっ、トキヤなら問題ないでしょ」
子供を世話しているような気分になる。楽しそうに満面の笑みを浮かべた彼は、相変わらず気持ちに正直なままだから。肩を縮こまらせはしたものの、悪びれてはいないし、私を見ている笑顔が崩れることもない。
「風、気持ち良かった?」
「まぁ…悪くはありませんでしたよ」
確かに風が触れる感覚は心地好い。陽射しを和らげてくれる、気持ちを落ち着かせてくれるような涼しさを感じる。
一緒に来ている音也は違うかもしれませんが…
繋いだ手はとても馴染んだ感触で、なんとなく安心してしまう。私から見れば不安要素があるのは彼の方にも関わらずに、だ。
「それにしても珍しいよね!」
「何がですか?」
「トキヤがずっと手を繋いでくれるの」
「確かに…そうですね」
外では限りなく接触を避けてしまっていたので、今回は偶然…いえ、願望かもしれない。
他人の目を気にせずに触れたい。
ただそれだけ。
「音也が嫌なら離しますけど」
「俺がそう言うと思う?」
「まさか。そんな事は思ってませんよ」
「だよね!」
気分がさらに良くなって、私は素知らぬ顔をして繋いだ手に力を込めた。一瞬だけこちらを見た彼も、パアッと表現したいくらいに瞳を輝かせて握り返してくれる。
「トキヤと手を繋ぐの、俺は好きだよ!すっごく嬉しいもん」
「では、このまま歩きましょう」
何気ない一日でもいい。
仕事で離れている時間より短くても、彼が隣で笑ってくれる。
一緒に過ごす時間が何よりも大切だと感じるから。
風になびく赤に、私は微笑んだ。
title by 空想アリア