謡う恋の旋律を《音也
夕陽が輝く放課後の教室、私は一人で作曲に励んでいた。
「音也くんのイメージだから、ここはもっと…」
それは音也くんの為に考えた曲。テンポ良く弾む旋律で彼を表現した私のオリジナル。ギターでアレンジができたらもっと良くなる気がする…
自己紹介で音也くんはギターを演奏した。満面の笑みで楽しそうに弾く姿が今でも脳裏に焼きついてる。
クスッ
「かっこよかったなー」
彼の詞は気持ちを正直に綴っている。何かに例えたとしても大切なフレーズは言葉としてそのまま残っている。ありふれた言葉だから、すんなりと染み込む想いがある。
ピアノで少しずつ変化をつけて何度も弾き直す。譜面には書き直した跡がいくつも残っていた。
「ここが物足りないかな」
ベースは納得しているのに、なにか引っかかる。
「うーん…」
「そこにいるのって春歌?」
意識を譜面に向けすぎて扉の音に気づかなかったみたい。聴こえた声に一瞬ドキリとしてしまった。そこにいたのは音也くんだった。
「今のは俺たちの曲?」
「うん。まだ途中だけど…」
後ろから覗き込むように譜面を見つめる彼に鼓動が早まる。すぐそこに彼がいて息遣いがわかるだけでなく、耳元で話しかけられる事に顔が熱くなる。
「そっかー。あっ、ここでストップしてるの?」
彼が指さした小節は私が引っかかり始める辺り。
「うまくイメージと合わなくって」
「じゃあ、一回俺も弾いてみようかな」
「えっ、ああの…」
「大丈夫だよー。俺は弾きながら考えるからさ」
パタパタッと教室を慌ただしく出ていく彼。揺れる赤い髪を私はただ見ているしかなかった。
部屋から戻ってきた彼はさっそく弾こうと隣へ座る。
「よしっ、ちょっとだけアレンジしてみるから聴いてみて」
奏でられる音、さっきまで自分で弾いていた曲が別の雰囲気で生きている。
「ふふっ」
思ったとおり彼みたいだなと思ってしまう。私が想う彼みたいだなと。目を閉じて彼の音を楽しんでいたら、さっきまで詰まっていたところにきていた。
「この流れだったら、こんな感じとか…」
曲が流れるままにアレンジされていく。私が微妙だと思うところ以外は譜面そのまま、所々に彼のアレンジを入れた曲として完成していた。
「音也くんのアレンジ、すごく惹かれます!」
私には浮かばなかった曲調に仕上がっている。さっきまで想像できなかったのに自然と納得してしまうモノ。
「俺は春歌に届けたいって思っただけ」
ジワジワと恥ずかしさが身体を満たす。さらっと気持ちを言える事は音也くんらしいな、と思う反面で心臓に悪い言葉を紡ぐ。
言っている本人は全く恥ずかしくない様子だから、逆に私の方が恥ずかしくなる。
「あ、りがとう…」
クスクスッ
「どういたしまして。次は一緒に弾こう!」
そう告げる彼はワクワクしているようで、雰囲気がより明るく元気なものになっていた。
「君はピアノ、俺はギターでさ」
「はい!合図は音也くんにお任せしますね」
「りょーかい!」
二人だけのコンサートが始まる。
紡ぐ音へ想いを乗せて、伝えたい気持ちにあなたは気づくでしょうか?
アンケート作品*音春でほのぼの