反論さえ呑み込んで《翔
隣を歩く春歌は俺と目線が同じくらい。レンもトキヤも身長が高いから見上げる形になる。それを毎日見てると…悔しいけど彼らがすごく羨ましい。
「春歌?」
モヤモヤと考えていたら服の裾を小さく掴むこいつ。
「翔くん、ぼーっとしていたら危ないよ」
「お、おぅ!次から気をつける」
「何か考え事してたの…?」
じっと琥珀色の瞳をこちらに向けて答えを待っている。
「おまえってさ、やっぱり身長高い方が好きか?」
「えっ」
「俺はチビだしさ、トキヤたちみたいに高い方が好きなのかなって」
我ながら情けないとは思う。
「高いのも嫌いではないけど、」
「けど?」
「別に私は身長なんて気にしないよ」
不安な気持ちが拭いきれない。こいつ自身は遠慮しがちな性格だから、相手が傷つかないように隠している気さえする。
「春歌はいいのか?」
「だって身長なんて関係ないでしょう。どんな翔くんも翔くんだから」
「…あ、あぁ」
「翔くんだから私は好きなんだよ!」
まるでスキップするように歩く姿は花みたいに可憐だった。
「春歌も…たまに恥ずかしいことを言うよな」
「へっ?どこか変だった?」
くりんとした大きな瞳をパチパチとさせて、不思議そうに首を傾げている。その様子がおかしくて、少しだけ笑ってしまった。
「ははっ、別に悩む事じゃねえよ」
ただ感想を言っただけなのに、真剣に悩んでしまうなんて可愛すぎる。
「翔くん、なにか面白かったの?」
「なんでもねえ。とりあえず歩こうぜ」
手を繋いで帰り道を進んだ先に大きな歩道橋が見えてくる。
「ちょっとだけ走るからな!」
「しょ、翔くん。いきなり…きゃっ」
そよぐ風が気持ちいい。身体で空気を感じて、掌は春歌の温もりを感じる。なにもかも最高だ。
「ふーっ。大丈夫か?」
「だっだい、じょうぶ」
「春歌はあまり走らないからな。顔が真っ赤だぞ」
息を整える彼女はしばらく苦しそうに呼吸をしていたが、徐々に落ち着いてきた。
「翔くんがいきなり過ぎるんです!」
「悪かったって、ごめんな。つい…」
階段を昇る足を止めて、後ろの春歌に向き直る。段差によって日常とは違う目線、少しだけ俺が高くなった今。
「つい、なんですか…っ!?」
「いつかこんな風にキスしてやるから」
ちゅっ
「翔くん!ここは外です!」
「さっきのだけだから大丈夫だろ」
「もうっ気をつけてください!」
色白な肌をピンクに染めて、でも口調はいつもよりきつい。それは恥ずかしさをごまかす為だろう。それが俺のせいなんだと思えば、優越感に浸ってしまう。
お互いに恋愛初心者、鼓動が煩くなるのは恋人だけだから。
title by 確かに恋だった
アンケート作品*翔春で甘々・階段でキス