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触れては消えた幻に

夜は那月が眠り、砂月が表へ出てくる。今は瞳を閉じて眠りについてるあいつに視線を向ける。

『おまえは何を望んでる?』

…なぁ、砂月。

それは誰にも聞こえない呟き。届いて欲しい彼は眠りに落ちているから。

今日は満月だ。目が覚めて気分転換に静かに床へ足を伸ばすベランダから見上げた先には月が照らす夜空。

昼間は見えない月、夜はこんなにも存在感を露にする。まるで砂月みたいだ。

『眠ってる時は落ち着いて触れる』

ベッドに顔を乗せる形で寝顔に触れる。とても整った顔立ち、近くで見れば睫毛はとても長い。ふわふわな髪は触り心地が良くて、つい撫でてしまう。

『黙ってればモテる訳だ』

砂月は…性格がアレだからこちらから触るなんて論外。あちらからの触れ合いは極端すぎて耐える事が俺には精いっぱいだ。

『すげぇ、柔らかいな』

翔ちゃーん、とか言って那月が抱きつく度に頭を撫でてくるのも分かるかも。安心するというか和むというか…

彼の髪に触れては梳いていく。自然と口元が緩むのが分かるが気にしない。そのせいで反応が遅れることになった。

グイッ

突然腕を捕まれる。

『なっ!?わ、悪い那月。起こしちまった』

クスクスッ

『俺の髪、触ってそんなに楽しいか?』
『砂、月…腕離せよ』
『嫌だ。俺はおまえのせいで起きたんだぜ、翔』

いつものように身体が悲鳴を挙げない。彼なりに加減はしているのだろう。

『だから悪かったって』
『なら、俺の言う通りにしろ』
『はぁ!?なんでそうなる!!』
『いいじゃねぇか、これくらいよっ』

砂月に身体を引き寄せられ、ベッドに転がり込む。

『今夜はおまえもこっちだからな』

幾分も大きい砂月の腕が、足が逃すまいと俺の身体に絡みつく

『さっさと寝ろ』

『この状況で寝れるか!』

鼓動が煩いくらい跳ねているこの状況で眠るのは困難だ。

『へぇ…俺を意識してるわけだ』
『い、いや、し、してない!』

クスッ

『その顔でよく言う』

『ちょっ…ん、くすぐったい』
『やっぱり翔は可愛いな』

小さく笑って、頬に触れてくる指先に思わず身体が疼く。

『可愛いとか言うな!』
『反応するあたりが可愛いんだよ』
『うっ…』
『自覚なしか?』

図星な事を言われて俯いていると砂月が動いた。

チュッ

『な、な、何すんだよ!』

唇に微かに残る感触。一瞬だけ感じた吐息をリアルに思い出してしまう

『何って、キスだろ』

チュッ

『だかっ、ら…なんで今すんだよ!』
『おまえが早く眠らないから』
『砂月!!』
『さっさと翔は寝ろ』
『わかったよ!寝ればいいんだろ』

諦めて瞼を降ろす最中、首筋にチクッと痛みを感じて思わず瞳を開けてしまう。

『おい!おまえ絶対にわざとだろ!』
『さぁな』

楽しげな声音とは裏腹にすぐ寝息が聴こえてきた。

シャツで隠れる位置ならいい…
明日の言い訳を考えては砂月の跡に意識して顔が熱い。

真夜中の邂逅はろくなものじゃなかった。でも、ほんの少し、ちょっとだけ幸せな時間を味わえた気がする。


title by 空想アリア 求愛より





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